ハイブリッド学習を包摂的、没入型、公平にする
What?
コネクティビティ、デバイス、そしてそれらを使用するスキルを備えていれば、学習者と教師は、状況や場所を問わず、未来に適合する新しい没入型かつ体験型学習体験に参加するためのツール、知識、力を手に入れることができるでしょう。
Why?
世界中で、子供達は、新型コロナウイルス感染症による世界的なパンデミックが始まる前でさえ学習の危機に直面していました。全世界で6億人以上が読力と数学の能力の最低レベルにさえ到達できていないのです。
How?
次世代のコネクティビティは、生徒がどこにいても、授業、スキル、資源、経験への前例のないアクセスを提供しながら、彼らを鼓舞する内容豊かで高品質な教育コンテンツ提供に貢献できます。
重要なポイント
5Gには学習体験を多様化と大衆化させる潜在性がありますが、コロナ禍では、コネクティビティとオンラインデバイスを使用するための基本的なデジタルスキルを利用できる人とそうでない人の間の情報格差が注目されました。
若い人たちが学校から離れている時間が長ければ長いほど、年齢相応の学習目標に追いつく可能性は低くなります。
ハイブリッド学習には、シームレスなコラボレーションを実現し、質の高い教育へのアクセスを提供し、すべての人に教育を提供しながら、教育の提供方法を変革できる可能性があります。
教育のイノベーションに対する最大の障壁は技術面ではなく社会的要素です。より大きな公平性を実現するには、アクセス、手頃な価格、デジタルインフラおよび帯域幅の可用性、そして、デジタル能力の問題を最初に解決する必要があります。
多くの人々にとって、教育は当たり前の事とみなされがちです。
しかし、学生の教育における格差拡大や不連続性による学習喪失は、世界中の何億もの人々にとって現実であり、その結果、教育のある時点までに実際に学生が学んだことと、理解したと期待されていることの間に不一致が生じます。
若い人たちが学校を離れている時間が長ければ長いほど、年齢相応の学習目標に追いつく可能性は低くなります。影響を受けるすべての人々—若者、コミュニティ、社会—にとって、長期的な影響は悲惨であり、感情的トラウマ、貧困に対する脆弱性、栄養不良、健康状態の悪化、雇用と収入の見通し低下をもたらす可能性があります。
新型コロナウイルス感染症の世界的流行の結果、2020年だけで、学校閉鎖により世界中で少なくとも4億6,300万人の子供たちがリモート学習にアクセスできませんでした。この数字は驚くべきものです。ユニセフによると、ウイルスの発現以来、封鎖と隔離の強制により、世界中の学童は推定1.8兆時間—現在も計測中—の対面学習を失った可能性があります。
パンデミックの期間、多くの学生と教師は、対面とリモートの参加者の両方をシームレスに組み込んだ融合型学習体制を迅速に確立し、この様な状況で効果的な学習を最小限の中断で継続でき、強化さえできることを証明しました。
しかし、真のハイブリッド学習アプローチは、十分に確立されたデジタルネットワークと、教育システムに必要な柔軟性と耐性を提供する、支持的なリモート学習諸原則に依存しています。この様に、パンデミックによる情報格差(オンラインデバイスを使用するためのコネクティビティと基本的なデジタルスキルを利用できる人とそうでない人の間の格差)と、その結果生じる公平性への影響にも注目が集まりました。
ケーススタディ:5G対応ロボットが遠隔教育を実現可能にする
5Gアクセスにより、ラスムス・ダルステン(Rasmus Dalsten)(13歳)は、肺の状態が深刻でありながらも、パンデミック中にロボットを利用して授業に参加することができました。
重度の肺疾患があるデンマーク出身の13歳のラスムス・ダルステンにとり、パンデミックは、学校の教室、友人、そして教師からの隔離を意味しました。
デンマークの通信サービスプロバイダーのTDCNet、デンマークのロボティクス企業のShape Roboticsとエリクソン間の協力の形で、デンマークのTDC//Ericsson 5G Innovation Hubにおいて、5Gがいかに彼を支援できるかを確認するトライアルが開始されました。
5Gを原動力とするロボットにより、光の速度の音声と画像によって、他の学生と同じ条件で参加が可能になり、ラスムスは仲間と再びつながり、授業計画についていくことができました。
この繋がっているという感覚は、新たな障壁も古い障壁も打破しながら、彼に独立感と物理的に存在している感覚を与えます。
「このリモートスクールアプリケーションは、社会のニーズに対応するデジタライゼーションの力を実際に示しており、デジタルインクルージョンの優れた一例です」
- エリクソンデンマーク代表、ニコラス・バックランド(Nicolas Backlund)
学習者をつなぐ
2021年9月、持続可能な開発のための国連ブロードバンド委員会のデジタル学習ワーキンググループは、「学習空間をつなぐ:ハイブリッド学習の可能性」というタイトルの新しいレポートを発表しました。このレポートは、ハイブリッド学習はシームレスな協力を促進し、質の高い教育へのアクセスを提供し、すべての人に教育を提供しながら教育の提供方法を変革できる可能性があると言及しています。この理由から、そして多くの教育機関が再開してはいても、学習へのハイブリッドアプローチ進展を続行するメリットは無限大です。
ハイブリッドアプローチは、コミュニティ内の基礎教育、ノンフォーマル/インフォーマル学習、社会的学習へのアクセスを拡大する可能性を開きます。また、カスタマイズされ、差別化されたコンテンツ提供、教師の専門能力開発と訓練のための新しい機会の提供、全体的学習コストへの影響を伴いつつ、より革新的な教授法もサポートします。
つながる教室におけるテクノロジーの役割
ITU電気通信開発局長、ドリーン・ボグダンマーチン(Doreen Bogdan-Martin)氏は、コネクティッドエデュケーションが非常に重要である理由を説明します。
では、テクノロジーは、どのようにしてすべての人に教育の新時代をもたらす支援ができるのでしょうか。 ブロードバンド委員会の報告書は、特に5G、マシンベースの学習、およびクラウドコンピューティングの重要性について強調しています。次世代ネットワークを通じて、5Gはあらゆるつながるデバイスを介した学習へのアクセスを実現します。帯域幅が広いほど安定性と速度が向上し、複数のデバイスと幅広いアプリケーションを使用して、より多くの学生がオンラインで学習できるようになります。モバイルインターネットの速度が速くなると、現場や仕事で、より優れた、そしてより効果的な体験型(居場所、リモート、問題ベース、プロジェクトベース)の学習をサポートすることにより、学習がどこでどの様に行われるかの再考にも役立ちます。
ケーススタディ:5G学習の実践
ウェールズのイニシアチブでは、5Gにより、児童は教室の外で没入型学習を利用できるようになりました。
DCMSプロジェクトである5G Wales Unlockedは、テクノロジーを教室の最前線に持っていく革新的な新しいプログラムを立ち上げました。ウェールズ政府が主導する本プロジェクトは、パートナーのBT、Full3Sixty、Ciscoと協力し、ブライナイ・グエントのエブブ・ベールの教室に360度の仮想学習体験をもたらし、クリエイティブパートナーであるJam Creative Studiosと共に、5Gが没入型テクノロジーをいかに実現し、豊かな教育環境創生に貢献できるかを示しました。
BTの5Gネットワークを使用し、教室は高速接続を利用して刺激的で教育的なビデオカリキュラムを教室の周りを囲む4面の壁すべてに投影し、コンテンツに命を吹き込みます。BT Groupのディレクター、ニック・スピード(Nick Speed)氏は述べています。「没入型の教室は、5Gのより広い帯域幅が、世界中の生徒たちがどこに居ても、彼らを鼓舞するリッチで高品質なコンテンツの提供にいかに寄与できるかを示す卓越した例です。地域間の教育格差を減らし、すべての生徒がこの種の革新的学習教材に確実にアクセスできるようになる可能性があります」
これに加え、5Gは教室の外でのライブリンクアップ(シスコが提供するカメラ技術による)を可能にしました。Jam Creative Studiosが提供するAR体験により、学習者は、モンマスシャーのラグラン城などの遺産の素晴らしい歴史を、現地に居るカドゥの管理人によるライブバーチャルツアーで発見することができました。また、彼らは、城の歴史についての手がかりを解き明かし、かつての栄光を明らかにする探求的タスクを通じて子供たちを導くアニメーションロボットにより、没入型の教室向けのインタラクティブなコンテンツを作成しました。
エブブ・ベール5G 360没入型環境のデジタル教育チャンピオン、エレン・ウェイト(Ellen Waite)氏は、「Immersive Room(没入型の部屋)が、以前は不可能だった場所や役割や体験へ足を踏み入れる機会をどの様に提供するかについて説明します。何かがどの様であるか、または、あったかを想像するよう言われると、生徒は限られた個人の経験では想像できないことが往々にしてありえます」と説明します。ここに関係するパートナーの全リストがあります。
「5G 360 Immersive Roomは、学習者のグループ全体を深く参加させ、VRに一緒にアクセスし、共有体験、教師の介入、ディスカッション、コラボレーションを提供し、状況に関する真の理解を促進する方法です」
-エブブ・ベール5G 360没入型環境、デジタル教育チャンピオン、エレン・ウェイト(Ellen Waite)
ハイブリッド学習の効果増幅のためのAIの利用
AIは、コンピューターサイエンスと堅牢なデータセットを組み合わせ、多くの場合、多大な人的労力と時間や資源への多額の投資を必要とするタスクを実行し、問題解決(および問題設定)を可能にします。AIにより多様な学習体験を提供できる可能性があることに疑いの余地はありません。しかし、マシンベースの学習には、生徒の学習目標やニーズにインテリジェントに対応できる可能性があります。例えば、最新ソフトウェアを使用し、教育実習と生徒の成績の関係に関するリアルタイム情報を提供することもできます。
ブロードバンド委員会のレポートによると、集中型クラウドコンピューティングからローカライズされたエッジコンピューティングへの移行により、新しい学習とインタラクションの様々な可能性が開かれます。クラウドがデータ処理と分析の中心的ハブである一方、エッジコンピューティングは処理とデータ分析をローカルで実行できる場所です。
これにより、状況に応じたデジタル教育方法という新しい文化や、特定ニーズに適したカスタマイズされたアプリケーション開発が促進される可能性があります。画一的なものではすべてに対応できないため、これはより効果的なハイブリッド学習のための主な要件です。より広い意味では、学習を監視、管理、促進、強化するAIが学習者をサポートする新しい可能性を開き、学習に伴うものやそれが発生する空間に対する従来の概念に疑問を呈し、新しい教授法やアプローチ、教師と生徒の関係の構成、教育組織と実践に対する可能性を生み出すものです。
エリクソンがクラウドベースのSchool Manager(学校管理者)ソフトウェアをConnect To Learnプログラムの一環として展開した時、登録された生徒数と使用・共有されている機器数を監視できました。また、どの資料がアクセスされていたか等に関するデータも生成しました。これにより、生徒のニーズに合わせてコンテンツや教授法を絶えず改善し調整することが可能でした。
しかし、この革新的テクノロジーを活用する能力は、適正な導入と知識がなければ限定されたものになります。エリクソンは10年以上にわたり、すべての人にとってのデジタルリテラシーの重要性を理解し、Connect To Learnプログラムを通じ、全世界でスキルアップの取り組みをすすめてきました。
その様な取り組みの一つに、教師のデジタル能力開発のためのアジアの教育機関との連携がありました。このプログラムは、31の学校で、教師が自分の時間に使用できるVR機器とコースモジュールへのアクセスを提供しました。こうした取り組みが、教室環境のシミュレーションを行い、プロンプトによって教室の活動を多様化させ、より学生中心で没入型の方法でのレッスン提供を促します。
ハイブリッドな未来に対する考慮
新しいシステムの採用やテクノロジーの構築に対する障壁を減らすことは喫緊の課題です。これらの障壁には、アクセスの可能性の不平等、手頃な価格かどうか、必要なデジタルインフラおよび帯域幅の可用性、生徒と教師のデジタル能力(デジタルスキル、プライバシー、安全性を含む)、カリキュラムや授業概要の計画の必要な変更が含まれます。それらはすべて慎重に検討する必要があり、多くの場合、協調的な官民ソリューションが必要です。
ブロードバンド委員会の報告書は、デジタル化によって教育へのアクセスを改善するための五つの方法を推奨しています。
デジタルテクノロジーによる教育へのアクセスおよび提供を改善するための五つのレポートの推奨事項
関係する全ステークホルダー間の堅実な投資、計画、およびコラボレーションは、最も恩恵を受ける人々だけでなく、すべての若者と大人が、現在、また今後数年間の柔軟な学習モデルからのメリットを享受できるよう保証するために不可欠です。財政的支援は極めて重要です。ITU(International Telecommuniation Union:国際電気通信連合)の推定によると、2030年までに全世界でブロードバンドコネクティビティのあらゆる場所でのアクセスを実現するために、4,280億米ドル、年間平均400億米ドルが必要になることが示されています。
「すべての学習者にとって意味があり手頃な価格のコネクティビティだけでなく、すべての学習者、家族、コミュニティが、安全性とプライバシーも確保しながら、テクノロジーによって提供されるアフォーダンスから完全に恩恵を受けられることを保証する政策的枠組み」
2021年ブロードバンド委員会報告書
勢いを維持する
では、今どのような行動が取られているのでしょうか? 2019年、ユニセフとITUは、すべての若者が情報、機会、選択肢にアクセスできることを保証するため、すべての学校をインターネットにつなぐ野心的なイニシアチブ、Gigaを立ち上げました。
Gigaによると、このエンティティは「国全体に、すべてのコミュニティのために、そして全市民のためにデジタルコネクティビティを提供するために必要なインフラを創生する基盤として機能します。それはコネクティビティの需要を特定するために学校を利用することがポイントであり、そこではコミュニティが集結し、私たち全員がますますデジタル化し、必要となるスキルが必ずしも正式なものでなく、学習が継続的に発生する世界で次世代をサポートできる学習とつながりの例えとして学校を使うことがポイントです」
2020年8月、2030年までにすべての学校をインターネットにつなぐことを目的としたProject Connectの支援に貢献するため、エリクソンはユニセフと提携しました。エリクソンは、学校のコネクティビティが必要な場所をよりよく理解するためにユニセフを支援しており、世界35か国の学校のコネクティビティのマッピングを行うユニセフを支援することにコミットしています。
それ以来、エリクソンは世界経済フォーラムのEdison Alliance(エジソンアライアンス)の参加者として、2025年までに100万人の子供と若者にデジタル学習およびスキル開発プログラムへのアクセスを提供する約束をしました。
ユニセフは、コネクティビティを超えて、最も疎外された人々に手を差し伸べるべく、Learning Passport(Time誌Best Invention 100受賞)などのデジタル学習ソリューションを開発・実施しています。さらに、ユニセフは政府やパートナーと協力し、デジタル学習をより公平に規模拡大し、コミュニティ、学校、教師と協力して学習にテクノロジーを効果的に活用し、教育を再考するためのスキルと訓練を確実に身に付けさせることに取り組んでいます。
コネクティビティ、デバイス、それらを使用できるスキルがあれば、学習者と教師は、未来に適した新しい学習体験に完全に参加できる知識と力を体得できるでしょう。