5Gモバイルデバイスのエネルギー効率に関する技術的考察

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5Gは、新しい機能と大幅な性能向上を実現しますが、モバイルデバイスのエネルギー要件は厳しくなります。以下ではモバイルデバイスのエネルギー消費を抑え、5Gのユーザー体験を継続的に改善できるかどうかを検討しました。*本ブログは2020年2月27日発表の英語版の抄訳です。

 モバイルデバイスとエネルギー効率

Principal Researcher, device radio technology

Senior Researcher, Radio

Researcher radio access standardization

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セルラーネットワークの運用に要するエネルギー消費の削減は、エリクソンが注力する重要な分野であり、持続可能性を高めるための重要な目標です。私たちの5Gのエネルギー消費に関する記事では、ネットワークのエネルギー効率の向上に焦点を当てていますが、個々のモバイルデバイスで消費されるエネルギーも考慮する必要があります。

最新のスマートフォンでは、たとえばアプリ、オペレーティングシステム、画面など、多くのコンポーネントがエネルギーを消費しています。しかしセルラー無線機もエネルギーを消費する重要な要因です。5Gでは少し例を挙げるだけでも、組み込み型モデム、スマートウェアラブル、ワイヤレスセンサーなど、デバイスの種類は大きく広がります。

5G NR(New Radio)の改善、特に常時オン信号をよりまばらに送信することにより、ネットワーク側のエネルギー消費は大幅に削減されました。この変更では、NRモバイルデバイスの無線処理ソリューションのアップデートも必要です。エリクソンは、NRテクノロジー開発の当初から、標準機能と独自機能の両面でデバイスのエネルギー効率向上に取り組んできました。以下では、デバイスのエネルギー効率向上に向けての課題と、NRリリースとネットワーク構成でこうした課題に対応する方法についてくわしく説明します。

最初のNRリリースでのデバイスのエネルギー消費

NRを使うとデータレートが高くなり、遅延が短くなります。このためユーザーデータセッションをLTEよりも速く終了できます。従って送信ビット当たりのデバイスの消費エネルギーは、基本的には低減されます。しかしデータの到着パターンは決定論的に定まるものではないため、デバイスは、データがスケジューリングされていない期間、可能性のあるデータスケジューリング情報について物理ダウンリンク制御チャネル(PDCCH)をモニターします。これについてくわしくは、5GのNR物理レイヤーに関する以前の記事をご覧ください。

同様の設定では、接続モードでの制御チャネルモニタリングについては、NRデバイスとLTEデバイスのエネルギー消費量に大きな違いはありません。ただしNRで性能を強化された新しい機能(より広いBW、より短いスロット時間、スロットごとの複数のスケジューリングイベントなど)を呼び出すと、制御チャネルのモニタリングに要するエネルギーコストも増加する可能性があります。この理由で最初のNR仕様であるRel-15には、非アクティブ状態、cDRX、カスタマイズされた制御チャネル監視など、デバイスの電力とエネルギーを節約するための多数のツールが含まれています。

  • デバイスはほとんどの時間アイドル状態または非アクティブ状態にあり、データのモニタリングから解放されてほとんどの時間「ディープスリープ」と呼ばれる低電力モード状態に留まります。デバイスはデータが到着したときのみ、データ送信のために接続モードに入ります。
  • cDRX(Connected mode DRX)は、デバイスのエネルギー消費削減のための重要な機能です。cDRXは、短いDRX構成と長いDRX構成で2つのレベルのモニタリング粒度を提供します。これによりデバイスは、たとえば長いDRXでは160msごとに1回の10msの期間など、明確に定義された間隔でのみスケジューリングメッセージをモニターできます。残りの時間は、デバイスをスリープモードのままにしておくことができます。
  • 制御チャネルのモニタリングパターンをカスタマイズすることにより、性能を低下させることなく、デバイスを一時的に中間的な低電力状態(マイクロスリープ)にすることができます。デバイスが特定のスロットのモニタリングをスキップするよう、カスタマイズされた「サーチスペース」を設定できます。デバイスの動作帯域幅やその他の動作パラメーターも、BWP(bandwidth part)スイッチングメカニズムを使って、低遅延・低シグナリング負荷に適応させることができます。

3GPPを構成する各社は、消費電力が最も低いディープスリープモードと比較した、さまざまなアクティブ操作に関連する相対的な消費電力を網羅する、お互いに合意したデバイス消費電力モデルを開発しました。デバイスが不必要なPDCCHモニタリングを実行する時間を短縮し、デバイスをスリープ状態にできるようにすることで、エネルギーを節約できる可能性は明らかに高くなります。

図1は、24時間にわたる各種のトラフィックイベントにおいてさまざまな状態で動作する典型的なeMBBデバイスの累積エネルギー消費プロファイルを示しています。左側の棒グラフには上から順に、制御チャネルのモニタリング、データ受信、接続モードと非アクティブモードでの定期的な動作と、ディープスリープの実行中に消費されるエネルギーの割合を示しています。右側の棒グラフは、それぞれの操作の実行に費やされた合計時間の割合を示しています。

接続モードで費やされる時間は比較的短いにもかかわらず、追加のデータ到着を待つために費やされるエネルギーが多くなっています。この例では、データ送信を伴わない制御チャネルのモニタリングが、消費される総NR無線エネルギーの半分以上を占めます。これはベースラインのRel-15フレームワークで、データ到着に対して必要な応答性を維持するためのコストです。図に示すように、不要な制御チャネルのモニタリングを回避することにより、デバイスの総消費エネルギーを節約できます。

ネットワークベンダーは、cDRXおよびSS(search space)パラメーターを設定して、デバイスのエネルギー効率とスループットや待機時間などのシステム性能のKPIとのトレードオフを制御できます。エリクソンはデバイスパートナーと協力して、システム構成の強化とパラメーター設定を特定し、NWとデバイスの両側で性能のトレードオフを改善しました。Rel-15 NR仕様を超えるエネルギー節約のために追加されたメカニズムは、独自の改良によってベースラインとの比較でさらなる省エネを実現する一方で、他の利点も提供できます。

図1:24時間にわたる典型的なeMBBデバイスのエネルギー消費プロファイル

図1:24時間にわたる典型的なeMBBデバイスのエネルギー消費プロファイル

 

mmW展開でのエネルギー消費

LTEと比較した場合のNRの重要な利点は、1 GHz未満から50 GHz(ミリ波、mmW)を超える広い周波数の範囲で展開できることです。最大で7 GHzの周波数範囲と7 GHzを超える周波数範囲は、それぞれFR1(frequency range 1)およびFR2(frequency range 2)と呼ばれます。FR1のみの展開はヨーロッパなど一部の地域で一般的ですが、FR2帯域は初期のキャリアアグリゲーションと米国などのEN-DC(LTE-NR dual connectivity)展開で広く使用されています。

NRデバイスはFR2バンドを使用して、非常に広いキャリア帯域幅でデータを交換し、非常に短いスケジューリング遅延を実現し、5GのeMBBデバイスでマルチGbpsのデータレートを実現します。

FR2には、FR1との比較で電力面で問題となる可能性がいくつかあります。

  • より広い動作帯域幅と無線周波数回路の効率の違い
  • スロット時間が短いので時間あたりで必要となるデコード操作数が増える
  • 基地局とデバイス間の狭い送受信ビーム接続を維持するためのビーム管理・測定の追加

表1は、これらの違いの一部を示しています。たとえばFR2帯での制御チャネルのモニタリングに必要となる瞬時電力は、FR1よりも75%高くなります。ただしデータ送信をはるかに速く完了できるため、FR2を使って特定のサイズのデータバーストを送信するために消費される総エネルギーは、FR1のみのセットアップより低くなる場合があります。

したがって、FR2キャリア追加によるエネルギー消費全体に影響する決定的なポイントは、実際のデータ送信に必要なときだけと動的にFR2キャリアをアクティブ化し、データがあるときに限ってFR2制御チャネルのモニタリングをデバイスに指示するネットワークの機能にあります。キャリアを一時的に無効にしたり、FR2 PDCCHのモニタリングを一時的に停止する機会は、データの再開後にアクティブな操作を再開するのに必要な時間に制約されます。Rel-15は、FR2キャリアのアクティブ化/非アクティブ化とモニタリングパターンの制御のための基本的なメカニズムを提供しますが、その動作は数十ミリ秒ほどの比較的低速です。

mmWから得られる優れたデータ性能を活用するために、初期ネットワーク構成のFR2キャリアを、データ送信が予想される長い期間にわたってアクティブ化したままにすることができます。この場合、FR2の一つ以上の100 MHzのNRキャリアで従来の20のMHz LTEキャリアを補完することで、デバイスはLTEに比べて6〜40倍の帯域幅で動作し、それに応じたより高いデータレートを達成できますが、デバイスのエネルギー消費も増加します。

バッテリー寿命の維持はユーザー体験の観点から重要なので、私たちはデバイスおよびチップセットベンダーと緊密に連携してcDRX構成の設定を改善し、FR2展開で利用可能なRel-15メカニズムの新しい使用法を導入しました。これによりデータ性能を確保しつつ、FR2対応デバイスのエネルギー消費を大幅に削減できます。それでもFR2キャリアの管理を強化する余地はまだ残されており、保留となっている3GPPリリースで対応される予定です。

  消費電力(相対単位)
デバイスの電源状態と操作 FR1
(7 GHz未満)
FR2
(ミリ波)
Deep sleep 1 1
Light sleep 20 20
Micro-sleep 45 45
PDCCH モニタリングのみ 100 175
SSB 測定 100 175
CSI-RS 測定 100 175
PDCCH+PDSCH 受信 300 350
アップリンク伝送
(TX電力レベルに依存)
250 - 700 350

表1:さまざまな操作と状態でのデバイスの消費電力(TR 38.840)

デバイスのエネルギー消費をさらに削減するRel-16の新ソリューション

以前のモバイルテクノロジー世代と同様に、最初のリリースであるNR-15の基本的なNR機能が完成した後は、後続のリリースでデバイスのエネルギー消費をさらに削減するため追加機能の開発と最適化が継続されました。エリクソンは、Rel-16でデバイスのエネルギー節約のために多くの改善を推進しており、それらは2020年の上半期に最終化される予定です。いくつかの重要な新機能を以下にご紹介します。

  • クロススロットスケジューリングの改善:  ネットワークは、ダウンリンク制御チャネルPDCCHとそれがスケジューリングするデータパケットの間の、K0スロットの保証最小時間間隔の存在をデバイスに通知できます。これによりデバイスは、データがスケジュールされていないときに不要なRF(radio frequency)操作を省略してデータチャネルをバッファできます。また、より効率的なPDCCH受信用の受信機構成を使える場合もあります。シグナリングは動的なので、受信モードを瞬時のデータトラフィックパターンに一致するように適応することができる可能性があります。結果として生じる接続モードのエネルギー削減は、ユースケースにもよりますが、最大で15〜20%になる可能性があります。図2は、K0 = 2スロットの場合のデバイスの受信処理を示しています。
    図2:クロススロットスケジューリング

    図2:クロススロットスケジューリング

  • ダイナミックSSSearch Space)アダプテーション:Rel-15のBWPスイッチングメカニズムは、制御信号モニタリングの密パターンと疎パターンの機能的な切り替えを可能にしますが、それに伴うモードスイッチングの遅延が、この機能の魅力を減じています。Rel-16では、瞬時のトラフィック到着イベントに合致する、SSスイッチング用の低オーバーヘッドで低遅延の新しい信号メカニズムが導入されます。これにより、データ性能に影響することなく、ほとんどのデバイスタイプで接続モードの消費エネルギーを最大10〜15%削減できます。
    図3:ダイナミックSSアダプテーション

    図3:ダイナミックSSアダプテーション

  • 接続モードWUSWake-Up Signal):Rel-15デバイスでは、cDRXパターンですべてのオン期間をモニターすることが期待されています。Rel-16では、ネットワークがオン期間にデバイスをスケジューリングする場合、オン期間の前にWUSをデバイスに送信できます。デバイスがMO(monitoring occasion)の間にWUSを検出しない場合は、以後のPDCCH監視をスキップできます。これにより、cDRXの設定によりますが、頻繁にスケジューリングされないデバイスに、接続モードで最大10%のエネルギー節減を提供できます。
    図4:接続モードWUS

    図4:接続モードWUS

  • セカンダリーセル休眠:セカンダリーセル(キャリアアグリゲーションのFR2キャリアなど)がアクティブ化されると、デバイスは従来、リンク品質の測定とレポート、およびそのキャリア上の制御チャネルモニタリングの実行を期待されていました。後者は前述のFR2のエネルギー消費の主な原因です。Rel-16では、デバイスはリンク品質をレポートしますが、セカンダリーセルの制御チャネルをモニターしない「休眠状態」のような動作モードが追加されます。セカンダリーセルでデータをスケジューリングする場合、プライマリーセルのダウンリンク制御メッセージを介して、ほとんど無視できる程度のエネルギーコストで、データを迅速に休眠状態から解除できます。
  • セカンダリーセルリリースのためのデバイス支援:Rel-16では、デバイスは現在の接続中により大きなデータ送信が予想されないことを、ネットワークに示すことができます。これによりネットワークは、直ちにセカンダリーキャリアを次のデータセッションまで非アクティブ化できます。

さらにエネルギー効率が優れたネットワークのエコシステムを目指して

エリクソンは、性能への影響を最小限に抑えつつデバイスのエネルギー効率をさらに高めるため、すでに新しいデバイスへの省エネ機能の実装計画を開始しています。また独自のネットワーク運用分析とデバイスパートナーからの情報の両方に基づき、標準で利用できるメカニズムを使ってネットワーク構成を改善し、今後の製品世代に先進的なメカニズムの導入を続けます。

デバイスのアーキテクチャーと実装が成熟するにつれて、デバイス側も進歩します。高度なネットワークメカニズムと改善されたチップセットを組み合わせることで、FR1とFR2のセットアップ、およびFR1のみの構成において、NRデバイスのエネルギー効率がさらに高まると期待されています。私たちは、スループットや待ち時間などの従来のネットワーク性能KPIを損なうことなく、これを達成できると予想しています。

ただしデバイスのエネルギー効率をさらに改善するための、標準分野での取り組みも継続されます。Rel-17では、シングルキャリア(またはFR1のみ)とCA(carrier aggregation)、DC(dual connectivity)(FR1およびFR2)両方の展開で、Rel-16のレベルを超える省エネを促進するメカニズムの追加が予想されます。従来のeMBBのトラフィックパターンに加えて、機能が低下したデバイスのエネルギー消費の改善や、データ送信頻度が低い他のユースケースも検討されます。

私たちエリクソンは、セルラーNWのエコシステムの持続可能性を向上する取り組みの最前線を走り続けています。デバイスのエネルギー消費削減は、その取り組みの不可欠な一部であると同時に、ユーザー満足度を高め、新しい5Gユースケースを実現し、すべての帯域で効率的なデバイス運用を促進することで、スペクトラム全体でのNRの継続的な導入を促進します。

もっと詳しく知るには

5Gネットワークのエネルギー効率についてはこちらをご覧ください。

最新の3GPPリリース17のフォーカスエリアについてはこちらをご覧ください。

エリクソンのdigital carbon footprint reportでは、ICTデバイスが気候へ及ぼす影響について、よりくわしく解説しています。

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