はじめに
クラウドRANやO-RANアライアンスで開発された仕様などの技術の出現により、通信事業者はRAN機能を処理する新しいさまざまな選択肢に関する疑問に直面しています。
- アンテナ近くで処理する非集中型と、集中化された場所で処理するのとどちらが最善か?
- RAN処理に最適な専用ハードウェアとクラウドインフラストラクチャーの組み合わせは?
- システム全体でTCO(Total Cost of Ownership)をどのように最適化できるか?
5Gの新しい処理ベースライン
上記の質問に答える前に、通信事業者が5Gに寄せている二つの大きな期待を見てみましょう。
- エリクソンモビリティレポートで今から2025年までに4倍になると予測されているトラフィックの増加に対応する。
- モバイルネットワークを活用し、クリティカルIoT、固定無線アクセス、超信頼性・低遅延接続などの新しいユースケースをサポートする。
これらの期待を満たすため、通信事業者は次の方法で5Gネットワークを構築しています。
- 新しく広い周波数帯、すなわちミッドバンドとハイバンドの追加
- カバレッジと容量強化のためにMassive MIMOを備えた高度なアンテナシステムを展開
- 短いTTI(time transmission interval)を使って遅延を短縮
これらの期待と対策は、通信事業者による5Gネットワークの設計と最適なRAN処理オプションの決定に影響を及ぼし、要件を増やします。
5G RANプロトコルスタック
次に、5G RANのプロトコルスタックに焦点を当てて、RAN処理が重要となる部分を解説します。3GPPは、CU(Central Unit)をDU(Distributed Unit)から分離する高層分割インタフェース(F1)を定義しました。以下に5Gプロトコルの要約を示します。
図1 5G RANのプロトコルスタック
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プロトコルスタックの下位にいくほど処理要求が高くなります。レイヤー1とレイヤー2の組み合わせが処理要求の90%を占めています。5Gの広いミッドバンド及びハイバンドとMassive MIMO技術を組み合わせることで、L1とビームフォーミングの処理要求は指数関数的に増加します(図2)。さらにトランスポートのオーバーヘッドはプロトコルスタックの下層に行くほど大きくなるので、非集中型の処理にはRANトランスポートの要件を下げられる利点があります。
図2 プロトコルレイヤーごとの処理要求
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多様化するRAN処理
4Gが構築された時点では、各アンテナサイトに分散されたベースバンドがあり、均一なネットワークでした。ローバンド、ミッドバンド、ハイバンドの組み合わせとなる5G RANはもっと不均一なので、異なるニーズを満たせる多様化した処理が適しています。以下は可能なセットアップの一覧です(すべてではありません)。
図3 展開セットアップと通信事業者にとっての価値(凡例は図2参照)
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RANのプロセッサーのオプション
Ericsson RAN Compute Basebandなどの専用ハードウェアは、下位レイヤーにはEMCA(Ericsson Many-Core Architecture)ベースのオーダーメイドのチップ(SoC)上のシステムを使い、上位レイヤーにはX86プロセッサーを使います。X86プロセッサーは今日のクラウドインフラストラクチャーで使われています。エリクソンはライブデモで、ローバンド5Gの全スタックをそのようなインフラストラクチャーで処理できることを示しました。ミッドバンドとMassive MIMOの場合、要件が厳しいL1処理を補完する手段としてハードウェアアクセラレーションが必要になります。
次に、専用ハードウェアとクラウドインフラストラクチャーの両方について、集中型処理および非集中型処理のメリットについて説明します。
非集中型処理
- 専用ハードウェア- アンテナサイト上の非集中型処理のため、専用ハードウェアはビームフォーミングと完全なIRC(Interference Rejection Cancellation)レシーバ処理のためにMassive MIMO無線に統合し、CPRI→eCPRI変換のためにルーターとゲートウェイに統合し、またベースバンドと屋外無線プロセッサーに統合することができます。
- クラウドインフラストラクチャー- アンテナサイトにラックスペースがあれば、専用ハードウェアの処理とクラウドインフラストラクチャー処理の両方が可能です。
集中型処理
- 専用ハードウェア– 専用ハードウェアには、サブラック内の計算能力を最大限に高められる利点があるので、よりコンパクトな実装が可能です。
- クラウドインフラストラクチャー- クラウドインフラストラクチャーによる集中処理の利点として、RAN、コア、コンテンツ/コンピューティングなどの複数のアプリケーションがクラウド内のインフラストラクチャーリソースを共有できる場合に、シナジーを生み出すことができます。
基盤となるEricsson Radio Systemと5Gクラウドコア
エリクソンには、ERS(Ericsson Radio System)を基盤として構築された100件を超える5G商業契約があります。ERSでは、EMCAに基づく専用プロセッサーを搭載した専用SoC(System on a Chip)を使用しています。EMCAは長期的な使用を想定しており、小さなフォームファクターと低消費電力で、最大限の性能を発揮するよう最適化されています。EMCAはMassive MIMO無線、ルーター、RANコンピュートを含む多くのEricsson Radio System製品への統合と、実証済みの安定したシステム性能を実現します。
2G/3G/4Gのクラウドインフラストラクチャーはすでに展開されており、複数の標準をサポートする専用ハードウェアで処理される成熟した技術であるため、通信事業者にとっては魅力的な投資対象ではありません。またEricsson Radio Systemの無線機とRANコンピュートポートフォリオは、リモートによるソフトウェアインストールで5Gをサポートしています。
通信事業者はクラウドインフラストラクチャーをベースに5Gコアを展開し、クラウドネイティブ技術を活用して、より効率的かつTCOが最適化された展開を実現しています。通信事業者がクラウドインフラストラクチャーを進化させる上では、インフラストラクチャーをドメイン間で共有(たとえば5GコアとRANの両方を実行)できるよう、5G RANユースケースの具体的な要件を考慮することが重要です。
エリクソンはクラウドインフラストラクチャーで専用ハードウェアを補完することを可能にします。
Ericsson Radio Systemのインタフェースは、クラウドインフラストラクチャー上でRAN処理を実行するために進化します。
- L1の重い処理を行うEMCA SoCベースのMassive MIMO無線は、スペクトル効率を最大化し、パケット化フロントホールインタフェース(eCPRI)を提供します。パケット化されたフロントホールは、クラウドインフラストラクチャー上の処理も可能にします。
- EMCA SoCはルーターで使用され、リモート無線ユニットのためにL1 CPRIからeCPRIへの変換を実行します。パケット化されたフロントホールは、クラウドインフラストラクチャー上でもこの処理を可能にします。
- 下位レイヤーの処理にEMCA SoCを使うハイバンドストリートマクロは、コアとの相互接続性を備えた共通のアンカーポイントから利益を得ることができます。クラウドインフラストラクチャー上のCUとして実現できるこのアンカーポイントには、新しいスケーリング機能により、より全体的な負荷分散を実現できる可能性があります。
5Gコアネットワークの処理オプションも多様化しています。コアネットワークの処理は、従来は少数の集中サイトで行われてきました。ただし非集中化コア処理には、E2Eのアプリケーション遅延やセキュリティ面で利点があります。これらの新しいクラウドサイトはRAN機能も処理できるため、このような5Gコアの非集中化により、クラウドインフラストラクチャーをエッジやファーエッジのデータセンターに導入し、RANとの処理の相乗効果を生み出せます。
エリクソンは、Ericsson Radio Systemを補完するため、RAN処理にクラウドインフラストラクチャーが段階的に導入されると予想しています。以下に三つの例を示します。
- 専用RANとクラウドインフラストラクチャー全体にわたるエリクソンスペクトラムシェアリングやキャリアアグリゲーションなどの独創的なインターワーキング機能の導入
- 戦略的な場所への集中型RAN展開は、十分なトランスポート容量が確保されていれば、多くのセルに対応できます。この種の展開により、リソースプールの向上、クラウドインフラストラクチャー上の効率的なスケーリング機能の実現が可能になり、非集中化サイトでのサーバー実装の強化が不要になる可能性もあります。
- 企業向け及び産業用エッジは、保守運用を簡素化し、ローカルデータの主権と機械学習/人工知能アプリケーションの利用を可能にすることで、クラウドインフラストラクチャーへのRAN導入の恩恵を得られる可能性のあるユースケースです。
RAN処理オプション評価のためのチェックポイント
結論として、通信事業者がRAN処理のオプションを評価する際に一般的に適用できる、技術に依存しないチェックポイントをいくつか挙げます。
5G RAN処理の評価ポイント
- 高負荷に対応して予想されるトラフィックの増加を支えられるか
- 将来のユースケースを確実にサポートできるか
- トランスポートとの組み合わせ
- 集中化と非集中化のプール化の利得の検討
- フルRANとトランスポートのTCOの最適化
- 均一なCOTSハードウェアへの調和による保守運用上の価値の定量化
- コアブレイクアウトとファーエッジと集中型RAN展開の併設による相乗効果の考慮
私たちは、予想されるトラフィック増加に対応し新しいユースケースをサポートするという期待に応える多くのRAN処理オプションがあるエキサイティングな旅の始まりにいます。エリクソンは、さまざまな展開シナリオでメリットをもみたらす広範なツールボックスを提供できることから、専用ハードウェアとクラウドRAN処理による相互補完的なアプローチが、通信事業者にとって最もROIの観点から適した方法であると確信しています。