47 Mbps…だから?
初めて4Gのスマートフォンを手にした日のことはよく覚えています。自宅で箱を空けた私がまず最初にしたのは4Gのスピードテストです。結果は47 Mbps。やった! 私は大興奮でした。エリクソンの多くの同僚や業界の多くの人々と同様に、4Gの誕生に貢献したことを改めて実感できたからです。私は数年前からスマートフォンを使いこなしていた当時10代の子供たちに、誇らしげに47 Mbpsを見せました。しかし子供たちから返ってきたのはただ一言、「だから?」でした。私は、子供たちが1秒あたりのビット数で示されるデータ速度といわれてもピンとこないことに気づきました。47 Mbpsというのはすごいのか、だめなのか、それともちょうどいいのか。その時以来、ほとんどのスマートフォンユーザーにとっては1秒あたりのビット数で表されるデータ速度などどうでもいいということを胸に刻んだのです。
サービスプロバイダーは加入者の5Gユーザー体験に配慮すべき
加入者の獲得コストと解約率は、あらゆる通信事業者の成功を左右する重要な要素です。解約率がユーザー体験と直結していることは、数多くの研究で明らかになっています。これは携帯電話産業の初期から知られていました。誰でも音声通話が途切れたときのイライラを経験したことがあることでしょう。肝心な時に通話が切れたらかけ直さなければなりません。それが電話会議ならPINコードを入力し直さなければなりませんが、運転中ですぐにはそうできなかったりすると、イライラは瞬時に怒りへと変わります。大手通信事業者が呼損率として0.5%を大きく下回る数値を目標にしているのもうなずけます。
音声通話の場合、ユーザー体験を測定するのは簡単で、通話の呼損率やブロック率、音声品質スコアなど、明確に定義された指標を用います。しかし通信業界はスマートフォンのインターネット接続(モバイルブロードバンド)に関しては、ユーザー体験の測定方法はおろか、ユーザー体験そのものの意味についてさえ合意できずにいます。
とてもシンプルなことなのに...
スマートフォンのユーザー体験はコンテンツが開くまでの時間で決まる
スマートフォンのユーザーにとって重要なのは「Time-to-content」です。これはクリックの後に動画の再生が始まるまでの時間や、二ュースのページをスクロールできるようになるまでの時間です。あのくるくる回るアイコンは通話が切れた時と同じくらい嫌になります。
(出典: https://en.wikipedia.org/wiki/Internet_Slowdown_Day)
図1: くるくる回る状態インジケーター
「Time-to-content」は、コンテンツ業界が数十年にわたってユーザー体験を評価するために使ってきた重要な指標です。コンテンツ配信ネットワークなどの産業は、「Time-to-content」を最短化することでユーザー体験を最大化してきました。一定して短い「Time-to-content」はコンバージョン率(お客様がサイトに滞在して最終的に「購入」をクリックする割合)に影響します。そのためこれはすべてのオンラインビジネスにとってきわめて重要な要素です。
ではいったいなぜモバイル業界は、ユーザー体験を測定する単位として「Time-to-content」を採用していないのでしょうか。
5Gユーザー体験に必要なのは全クリックで20 Mbpsを実現すること
エリクソンは、スマートフォンで人気のコンテンツ(YouTube、Instagram、Amazon、ebay、Uber、IKEAなど)を要求するという調査を徹底的に行い、「Time-to-content」と私たちが「at click」と呼ぶスループットとの関係を導き出しました。「at click」スループットとは、「Time-to-content」のフェーズにデバイスが実現できるスループットのことです。この調査は、Googleがweb.devで提供しているツールとガイドラインを使って行われました。図2に私たちが導き出した関係を示しています。このグラフでは、今後5年間における人気コンテンツのサイズの成長や、デバイスの処理能力の予測を考慮しています。
(絵文字出典:i2symbol.com)
図2:クリック時のDLスループットに大きく依存する「Time-to-content」
この調査で判明したことは以下のとおりです。
- クリック時のダウンリンクスループットが20 Mbps、アップリンクスループットが1 Mbpsの時、人気コンテンツの大部分でスマートフォンでの快適なユーザー体験を提供できます。この速度がこれ以上向上しても、ユーザー体験はほんのわずかしか向上しません。
- クリック時のダウンリンクスループットが5 Mbpsを下回るかアップリンクスループットが300 Kbpsを下回ると、ユーザー体験は急激に低下します。
- 動画のストリーミングはそれほど負荷が高くありません。高解像度(1080p)のYouTube動画の場合でも、クリック時のダウンリンクスループットが10Mbpsで2秒以内に再生が始まります。動画の再生が始まった後にダウンリンクスループットが5 Mbpsまで下がることがありますが、これが動画の再生品質に影響を与えることはありません。
- クリック時のダウンリンクスループットがどれほど高くても「Time-to-content」の制約となるデバイス処理の遅延は常に存在します。2025年のハイエンドのスマートフォンのデバイス処理遅延は、1秒をわずかに下回る程度になると予測しています。
ユーザーはいつでもどこでも快適な体験を求める
ユーザーは素晴らしい体験を、いつでもどこでも得られることを期待しています。ネットワークの負荷が高くなりがちな混雑時や混雑するエリアであっても、ユーザーがスマートフォンをクリックするたびにダウンリンクで20Mbps、アップリンクで1Mbpsの通信を実現できる必要があります。しかし、下の図が示すように、それをいつでも実現できるわけではありません。この図は商用ネットワーク内のスマートフォンから収集された「Time-to-content」の測定値を示しています。
図3: 輻輳時のユーザー体験の低下
米国のとある主要都市のビジネス街にスマートフォンを固定し、1分に1回、apple.comのコンテンツが表示されるまでの時間を計測しました。グラフからわかるように、ネットワークの負荷が低い真夜中は「Time-to-content」が短いままでした。しかし日中に負荷が高くなるにつれて「Time-to-content」も延びています。一番短い「Time-to-content」と一番長い「Time-to-content」の差が大きくなるほど、ユーザー体験は不安定化します。この4Gカバレッジエリアは昼間になると完全に輻輳状態になります。
もちろん状況の全体像を把握するには、時間の経過とともに頻繁にサンプルを採取する必要があります。
図4に示すように、ネットワークの負荷は、人口移動を反映して一日を通して変化します。動画ではまず朝は通勤の中心となる駅で高負荷が発生します。その後に高負荷エリアはビジネスエリアとイベント会場、そして夕方以降は住宅地へと移っていきます。
図4: 時間帯によって異なるエリアで発生する高いネットワーク負荷
ユーザーは平均値を体験するわけではない
ユーザー体験については、平均だけではなくその全範囲を測定することが重要です。図5の車のように、ユーザーは平均値ではなくすべての範囲を体験するのです。特に極端に否定的な状況はユーザーの記憶に残ります。私のお気に入りのレストランは、いつ行っても期待通りのものを提供してくれます。たとえ平均点は高いとしても、ある時は期待を上回り、その次の時には失望させられるようなレストランは好きではありません。
(画像の出典 :imgur.com/gallery/oFNW7wD)
図5: 平均値に惑わされることもある
基地局における4Gおよび5Gユーザーの体験の測定
最新のEricsson Radio Systemのソフトウェアには、4Gと5Gの全カバレッジエリアですべてのユーザーが経験するあらゆるクリック時スループットを年中無休で受動的に測定する革新的な機能が搭載されています。個々のクリック時スループットのサンプルは、図2に示す関係に基づいた「Time-to-content」サンプルにマッピングされます。図6に示す欧州の二つの4Gネットワークの例は、こうしてユーザー体験を全範囲で収集したものです。縦線は各カバレッジエリアのTime-to-contentの平均を示し、色付き部分の上限は同じエリアの最悪値を示しています。グラフでは90パーセンタイルを最悪値として選択しました。つまりすべてのユーザーの活動の10%では「Time-to-content」がさらに長かったのです。
図6: 2021年第45週に継続して一日24時間週7日間測定した8億人以上のユーザーの行動に基づく4Gカバレッジエリアごとの「Time-to-content」
結局、誰が5Gのピーク時のダウンロード速度を気にするのか?
数百Mbpsのダウンロード速度は、現在の典型的なスマートフォンユーザーに大きな恩恵をもたらしません。それよりも、いつでもどこでもクリックするたびにコンテンツにすばやくアクセスできることが大切なのです。5Gではユーザーがくるくる回るアイコンをもう見なくていいようにすべきなのです。
世界中の多くの4Gネットワークは、混雑するエリアで混雑時に輻輳状態となるため、多くのスマートフォン上ではアイコンがくるくる回っています。このようなネットワークには、混雑エリアの容量を拡張するブースター接種がどうしても必要となります。しかしどこを増強すべきかを見極めるには、優れた眼鏡が必要です。
(二つの図の出典: pixabay.com)
図7:容量を増やすブースター接種をする場所を見極めるには優れた眼鏡が必要
ネットワーク性能を最終的に判断するのはユーザーです。ですからユーザーの眼鏡を通してネットワーク性能を評価しなければなりません。優れた眼鏡を使えば、常にすべてのカバレッジエリアですべてのユーザーの活動におけるユーザー体験を観測することができます。芳しくないユーザー体験を平均値で隠し、ネットワーク性能を実際よりも良く見せるバラ色の眼鏡にだまされてはいけません。
5Gはスマートフォンだけに関わるものではありません。多くの通信事業者は、すでに世帯向けの5Gベースのインターネット接続の提供を始めています。これらの世帯は有線接続されていないどころか、これまでインターネットに接続したことがない場合すらあります。それが今や数百Mbpsのダウンロード速度が得られるのです。
5Gは、消費者にとってのメインのデバイスとして、スマートフォンを補完あるいは代替する新しい製品を実現させるかもしれません。私が見たVRやARの試験アプリはとても興味深いものでした。私の子供の世代はこれらにどんな反応をするでしょう。これらのアプリには、一般的なスマートフォンユーザーが優れたユーザー体験を得るために必要とするよりも高いデータ速度が必要となると予想されています。
また5Gは消費者向けだけの技術ではありません。私は5Gが企業に大きな新しい機会をもたらすと強く信じています。今日のスマートファクトリーのロボットの中には、一般消費者が満足する速度をはるかに超えるデータ通信速度を必要とするものがあります。そのようなロボットは、超高信頼性で非常に安定したデータ通信をも必要とします。
では5Gで遅延が問題になるのはどのような局面でしょう。その点については次回のブログで取り上げる予定です。
詳細情報:
Time-to-content: Benchmarking network performance
Ericsson Network IQ Statistics
Explore the Tech Unveiled blogs and videos
Reiner's daughter