ネットワークスライシング収益化戦略の策定ー先行通信事業者の事例
エリクソンは通信事業者から二つの重要な質問を受けています。一つは「ネットワークスライシングは商用化できる段階にあるのか?」、もう一つは「ネットワークスライシングのビジネス事例は存在するか?」です。
最初の質問への回答は間違いなくイエスです。ブログ記事「Realizing 5G Network Slicing Monetization Opportunities」で以前に説明したように、先駆的な通信事業者はさまざまなネットワークスライシング技術の試験に成功しており、その一部はGTM(Go-To-Market)シナリオとビジネスモデルの評価に移っています。商用スライスの提供を開始した先行企業もいくつかあります。
しかし2番目の質問「ネットワークスライシングのビジネス事例は存在するか?」についてはどうでしょう?その回答もイエスです。通信事業者がこの課題に取り組めるように、エリクソンは、スライシングのビジネス、技術、運用面を網羅する四つのステップからなる支援フレームワークを開発しました。今回の記事では、主要なティア1 通信事業者との最近の取り組みを通じて、このフレームワークについて説明します。
ティア1参照事例
本通信事業者の課題
このティア1 通信事業者は多くの通信事業者と同様に、企業顧客向けにカスタマイズされた5Gネットワークソリューションを提供することで、5Gへの投資を収益化しようとしていました。これは企業が最も大きな収益化の可能性を見込んでいる分野であり、企業側はネットワークスライシングの容量予約、より高い信頼性、QoS(Quality of Service)保証から大きな利益を得ることを期待しています。
最初のステップではビジネス戦略の策定が必要です。どのようなネットワークスライシングの機会が経済的および技術的に実行可能かを判断するために、ティア1 通信事業者は次の質問に自問自答する必要がありました。
- 自社の戦略に合致する可能性が最も高いのは、どの業界の業種とユースケースか? どのようなバリューチェーンの役割を選ぶべきか?
- 可能性が最も高いユースケースの技術要件(必要な遅延要件、保証スループット、サービス保証など)は何か?
- TCO(Total Cost of Ownership)をどのように定量化し、ユースケースをどのように収益化し、ビジネスケースの妥当性を最終的に判断するか?
本通信事業者の緊密なパートナーであるエリクソンはエリクソンネットワークスライシングE2E 収益化フレームワーク(図1)を使って、通信事業者が前述の問に回答するのをお手伝いしました。この取り組みでは、アプローチの最初に三つのブロック(ユースケース戦略、ユースケース分析、ビジネスケース)に焦点を当てました。
ステップ1: ネットワークスライスのユースケース戦略
企業向けの包括的なデジタル化戦略と、それに対応する通信事業者の収益化戦略を開発するには、各業界の優先事項、バーティカル固有の要件、課題、KPI、プロセスを理解することが重要です。私たち自身の市場調査、経験、通信事業者との話し合いに基づいて、顧客市場に合わせた潜在的なユースケースのリストを絞り込みました。
本通信事業者はホリゾンタルまたはバーティカルのユースケースに優先順位を付け、それぞれの長所と短所を考慮して特定のユースケースを選択する必要がありました。最も有望なユースケースを特定し、実装ロードマップを作成するには、包括的な分析が必要でした。
対象業種の特定: 本通信事業者は、展開地域内の産業界のニーズに基づき、製造、メディア・エンターテイメント、輸送、港湾の四つの業種を特定しました。デジタル化の機会を特定し、どこで最大の利益を得ることができるかを判断するには、個々のバーティカルの要件を深く理解することが不可欠でした。たとえば製造業の最大の課題の一つはスキルギャップですが、港湾業ではデジタル化を推進する最大の要因は安全性でした。
同業他社精査: 次にグローバルなフロントランナー企業による活動を精査し、世界で起こっていること、主要な企業や他の通信事業者が試行または展開したこと、包括的なデジタル化と収益化戦略の開発に適用できる重要な学びを明らかにしました。
|
各地域の重要産業のバーティカル/ユースケースを見る 大局的な観点から見た各地域で特に興味深いユースケースは次のとおりです。 アジアでは大手の通信事業者が製造業、公益事業、建設、運輸、鉄道などを上位の業種として特定しており、ネットワークスライシングを使った動画アップロードのユースケースが関心を集めています。また港湾やスポーツイベント用のスライスなど、よりニッチな分野に関心を持つ通信事業者もいます。 北米ではミッションクリティカルなサービス、政府サービス、PCI(Payment Card Industry)業界などのコンプライアンス、コネクテッドカー、プライベートネットワークや産業向けIoTなどのホリゾンタルサービスの全国規模のスライスが注目を集めています。いくつかの大手通信事業者はクラウドゲームにも関心を持っています。 |
戦略的整合性の確保: 潜在的なユースケースとの戦略的整合性を確保するために、エリクソンは、本通信事業者の優先順位、既存の顧客関係、長期的構想、既存のソリューションとの相乗効果など、いくつかの要因を考慮する必要がありました。本通信事業者は長期的な内部戦略を定量化し、動画のアップロード要件が高いユースケースに高い優先順位を付けました。
ユースケースの上位集合の作成: エリクソンは、業界分析、本通信事業者の戦略的優先事項、同業他社精査、エリクソン内部の分析に基づいて、潜在的なユースケースの上位集合を作成しました。エリクソンは当初、前述の四つの主な業種で100の潜在的なユースケースを特定しました。
フィルタリングと優先順位付け: 選択手順の最後のステップでは、ビジネスの可能性、テクノロジーとエコシステムの成熟度、投資要件にフォーカスし、潜在的なユースケースをフィルタリングして優先順位付けを行いました。
エリクソンのユースケースフィルタリングフレームワーク(図2)を使うことで、上位二つのスライシングユースケースを特定できました。1)アップロード要件の高いユースケースであるメディアおよびエンターテインメント向けのライブ動画制作と、2)典型的な製造業のユースケースであるロボットによる自動化のユースケースです。さらに、今後の検討課題として、中長期的な機会ロードマップを作成しました。
ステップ2 ユースケース実行戦略
顧客エンゲージメントの2番目のコンポーネントには、技術およびGTM(Go-To-Market)要件への対応にフォーカスし、本通信事業者と協力してユースケースを詳細な技術およびビジネスニーズにマッピングすることが含まれました。
ユースケースのスライシングの価値を説明するために、最上位のユースケースであるLVP(Live Video Production)をくわしく見てみましょう。消費者はイベントの進行をそのまま見たいと望んでいることから、ライブ制作の需要が高まっています。このユースケースの主な目的は、フィールドカメラがリモートの制作サーバーにストリームをリアルタイムで送信するための接続を支援することです。これを実現するためには、ネットワークがフィールドに接続遅延の少ない高アップロード帯域を動的に提供する必要があります(必要な場合にのみ特定の地域でこれらの要件をサポート)。現在はフィールドカメラから制作センターにコンテンツをストリーミングするために衛星ベースのソリューションが採用されていますが、この方法はコストがかかります。
ネットワークスライシングを利用することで、本通信事業者はカスタマイズされたネットワーク特性と必要なQoSを備えたスライスを作成し、特定のエリアでリモート動画放送をサポートできます。5Gスライスを実装すると、衛星ソリューションで必要となる移動中継車、高価な接続プラン、複数のサポート担当者による長時間の移動が不要になるため、コストを大幅に削減できます(図3参照)。
|
LVPケーススタディ: DT(Deutsche Telekom)はエリクソンと協力してオンデマンド動画制作を試行し、ネットワークエクスポージャーによる5Gネットワークスライシングの実証実験を行いました。DTは現在、RTL Deutschlandと協力してこのサービスの試験と立ち上げを行っています。この概念実証は「network-as-a-service」イノベーションのベンチマークとして、5Gネットワークスライシングが企業顧客にもたらす新しいレベルの柔軟性と制御を明らかにすると同時に、スライシングサービスにE2E(End to End)のオーケストレーションを提供することで、構成を完全に自動化する能力を示すものとなりました。 |
スライス実装ロードマップ: ユースケースのポートフォリオ全体で明確な実装戦略を策定するためには、本通信事業者のビジネス戦略が、テクノロジーの可用性に基づくものでなくてはなりません。
ライブ動画制作に関して言えば、ネットワークスライシングは、ライブ動画放送に必要なカスタマイズされた一時的な専用接続をニュース製作者に提供できます。
ニュース製作者は、動画を制作部門にストリーミングするために大きなアップロード容量を必要とし、かつそれをほぼリアルタイムで行う必要がありました。さらに必要に応じて接続の強化を要求するために使うAPIベースのセットアップも必要です。これにより、SLAベースの課金を伴うオンデマンド接続が可能になります(図4)。
これらのビジネス要件を念頭に置いて、本通信事業者と協力して、このユースケースを実現するために必要な主要な技術的機能を特定しました。もう少し詳しく見ていきましょう。
- 高いアップロード要件は、高密度化とE2Eネットワークスライスの展開で満たすことが可能
- 戦略的な場所にローカルパケットゲートウェイを展開することで低遅延を実現可能
- ニュースクルーからの要求を受信するAPIとそれに対応するサービス提供の自動化は、プロセスの自動化とネットワークエクスポージャーAPIによって実現可能
- 現在の課金スタックは、イベントベースの課金機能をサポート
- SLAベースの課金は開発中であり、中期的に利用可能になる予定
この方法論を適用することで、ビジネス要件とテクノロジー機能のロードマップを作成することに成功しました。これはユースケースの展開ロードマップを定義するのに役立ちます。
通信事業者は上記に加えて、ネットワークや接続性以外の機能(プラットフォーム、サポートシステム、組織の能力など)にフォーカスを広げる必要もあります。これらの機能のうち、組織的に開発できるものと、パートナーシップによる調達が必要なものを決定する必要があります。
|
現在、事前に構成されたスライスを展開して管理/収益化する機能が存在し、Singtelのような通信事業者はスライシングの収益化に成功しています。
クローズドループの自動化とSLAベースの課金は、通信事業者が待ち望んでいる最も重要な機能の一部です |
Go-to-market (GTM): 詳細な技術要件が特定されたので、次のステップはGTM要件を調査することでした。これを行うには以下を調査する必要があります。
- バリューチェーンの役割
- パートナーの選択
- エンゲージメントモデル
ネットワークスライシングでは接続性だけでなくE2Eサービスも必要となるため、複数の関係者がプロセスに関与します。分売収益を決めることにつながるため、通信事業者はどの役割を担いたいのか考える必要があります。
ティア1の通信事業者は、一般にサービスの生成者となって主導的な役割を果たすことを望みます。しかし本通信事業者が選んだユースケースは、バーティカル固有の専門知識を多く必要とするニッチな分野で、短期間で習得することはできないものでした。そのため、パートナーと提携してサービスイネーブラーの役割を担い、接続性とアプリケーションのホスティングプラットフォームを提供することがより有益でした。
ステップ3 ビジネスケース
取り組みの最終段階では、ビジネスとしての実現可能性の試験と、導入を促す価格戦略の考案に重点が置かれました。商用化の可能性を試験するには、TCOとユースケースのメリットを定量化する必要がありました。
ネットワークのTCO: ネットワークの設計と規模に基づいて、本通信事業者のネットワークのTCOを見積もりました。基本的にネットワーク内の各要素(RAN、コア、トランスポート、オーケストレーターなど)のコストは、使用率とQoS保証に従って配分されます。これを構造化された方法で行ったことはこれまでありませんでした。
エリクソンのTCO計算ツール
通信事業者は、価格設定の基礎となるネットワークスライスのTCOの決定に高い関心を持っています。TCO Calculatorは、通信事業者がさまざまなネットワークスライシングのユースケースの実行可能性と必要な技術投資を見積もるのに役立つように開発されました。このツールには、主に1)設備投資と運用費用の両方を含むスライスのTCO、2)コストと価格、3)推定TCOと価格に基づくビジネスケースの三つの商用見積もりがあります。
利益レベル: ユースケースの価値を定量化するための最初のステップである利益レベルが特定されました。この作業を通信事業者および企業と協力して実施し、価値の促進要因を検証し、財務上の利益を見積もるための情報を共有することが非常に重要です。
ビジネスケースの決定: ビジネスケースの決定に関して、本通信事業者が特定した上位二つのユースケースの一方のLVPを調べてみましょう。これには10Mbpsのアップリンク帯域幅と25~50ミリ秒の一方向遅延、99.9%の信頼性が必要でした。5GSAネットワークを使ったネットワークスライシングのターゲットカバレッジエリアは50平方kmで、1平方kmの各セルサイトに2台のカメラが設置されました。サイトの総数は50なので、LVPでサポートされるカメラ(UE)の総数は100で、同時接続は最大20%でした。
この特定の例では、エリクソンは前払い料金なしのOPEXベースの価格設定、つまりNSaaS(Network Slicing as a Service)を推奨しました。これは一般に企業に好まれるモデルです。エリクソンのモデルは、このビジネスケースには利益性があり、バリューチェーンの役割と価格モデルに応じて、2~5年以内に投資を回収できることを示しました。エリクソンの見積もりによると、通信事業者のTCOは8年間で約60万ドルとなり、価格マージンが30%とすると、このサービスは最長でも5年で利益を上げることができます。
|
商用モデルに対するエリクソンの見解: -通信事業者は、最小限のカスタマイズを要する単純なユースケースから開始し、OPEXのみの商用モデルを使って市場を試験し、市場への導入を迅速に進める必要があります。 - 通信事業者が厳しい/カスタマイズされたQoSスライスのために多額のCAPEXとOPEXを負担するシナリオでは、「CAPEX + OPEX」モデルから開始し、ソリューションと市場が成熟するにつれて「OPEXのみ」のモデルに移行できる可能性があります。また通信事業者には、自らが負担したCAPEXが時間の経過とともに確実に吸収されるように、「OPEXのみ」の価格設定を提供しながら、企業の最小コミットメント期間を確保する方法もあります。 |
ステップ4最終ステップ:運用準備
本通信事業者の次の段階は、運用の準備状況を評価し、大規模な商用化の準備を整えることです。これは最も重要な領域の一つですが見過ごされがちです。
スライシングは、ネットワークの導入と提供の方法を根本的に変えるものです。したがって通信事業者には、ネットワークスライシングを展開、管理、販売できる組織が強く求められます。通信事業者は、アジャイルやDevOps機能などの分野で能力を育て、働き方に柔軟性を追加し、組織内のバーティカル機能を強化し、プロセスを自動化してネットワークスライシングを大規模に管理できなくてはなりません。これらのすべてには、適切な計画とある程度の組織の変革が必要です。これには時間がかかるので、技術計画および事業計画と並行して開始する必要があります。
未来を見据えて
戦略的計画により、ビジネス、技術、運用上の課題が軽減することで、通信事業者はネットワークスライシングによる収益化の機会をつかむことができます。私たちと通信事業者の協業は、徹底的な商用収益化と技術評価を実施することの重要性を示すものとなりました。この特定のシナリオの通信事業者は、主なユースケース、価値の創造、ネットワークアーキテクチャーの決定、スライスの価格について十分な洞察を得て、優先分野の友好的な顧客と共に概念実証を進めることができました。
さらに、この分野で成功するには運用面を考慮する必要があります。これは現在通信事業者の優先事項ではありませんが、これを無視すると長期的には高くつくことになります。
|
独自のネットワークスライシング収益化戦略の策定をお望みですか? エリクソンは高度なスキルを持つコンサルティングチームを通じて、市場固有の要素、ビジネスの見通し、必要なネットワーク機能を考慮しつつ、通信事業者による5Gとスライスの収益化戦略の考案を支援する専門知識を提供します。詳細についてはエリクソンの営業担当までお問い合わせください。 |
もっと詳しく(英語ページ):
5Gネットワークスライシングを使って放送事業者が少ない費用でより多くをカバーする方法についてはこちら
ネットワーク スライシングの詳細はこちら
ブログ記事はこちらからご覧いただけます
リモートライブ放送 - 5Gネットワークスライシング初期のユース ケース
5Gに新たな収益化の可能性を開くネットワークスライシング
ホワイトペーパー「ネットワークスライシングを検討する2,000億の理由」のダウンロードはこちら
エリクソンのレポート「ネットワークスライシングの収益化を加速する時: 中東とアフリカの5Gネットワークスライシング導入」はこちら
関連コンテンツ
Like what you’re reading? Please sign up for email updates on your favorite topics.
Subscribe nowAt the Ericsson Blog, we provide insight to make complex ideas on technology, innovation and business simple.