SMOは、図1に示すように無線アクセスネットワーク(RAN: Radio Access Network)において無線基地局の外側に位置し、標準化されたインタフェースを介して多数の基地局とデータをやりとりしながら様々な処理を行います。この処理は目的に応じて開発されたrAppと呼ばれる様々なアプリケーションプログラムにより提供されます。SMOにおいては、このrAppを開発するための標準化されたAPI(Application Programming Interface)が準備されています。このAPIを通して、通信機器ベンダーだけではなく事業者、あるいはアプリ開発業者がrAPPを開発することが可能となっています。また、APIは標準化されているため、原則としてrAPPは機器ベンダー間、事業者間で共通化することも可能です。
rAppとしては、RANの高度化、RAN展開、RAN最適化、RAN復旧などに関連した様々な種類が準備されます。RAN高度化rAppは、無線アクセス性能の向上や基地局のエネルギー消費の抑制などを目的としたものです。RAN展開rAppは、新たな基地局を設置した場合の出力やアンテナ放射角などのパラメータを近傍の既設基地局との干渉調整なども含めて自動設定することを目的としています。RAN最適化rAppは、RANからのデータに基づきユーザエクスペリエンスを向上するためのパラメータ調整などを行います。RAN復旧rAppは、基地局廻りに問題が生じたときに自動的に原因を特定・復旧し、継続的な運用を担保する役割などを担います。
エリクソンでもEIAP(Ericsson Intelligent Automation Platform)と呼ばれるSMOの開発を進めています。図2にEIAPの基本構成を示します。EIAPは、非リアルタイムRANインテリジェントコントローラ(Non-RT RIC: Non-Realtime RAN Intelligent Controller)、rApp群、SDK(Software Development Kit)、エクスポージャの機能から構成されます。Non-RT RICは基地局との直接のインタフェースを持ち、基地局の制御や調整、パラメータ設定などを行う機能でrAppからの要求を受けて動作します。Non-RT RICとrAppの間がR1と呼ばれる標準化されたAPIになります。このAPIを利用するrApp開発のためのツールとしてSDKが準備されています。エクスポージャは、ネットワーク全体の運用サポートシステム(OSS: Operation Support System)やビジネスサポートシステム(BSS: Business Support System)からrAppに対して指示をしたり、rAppで得られたデータをOSS/BSSで分析するような場合に利用する機能です。
さて、Non-RTというのはrAppの指示から基地局の動作に到るまでの時間が1秒以上で、場合によっては年単位の長期的な制御になるという意味です。この言葉は、Near-RT RIC(Near Realtime RAN Intelligent Controller)に対比して使われています。Near-RT RICは基地局により近いところ、あるいは基地局内に実装する1秒以内のよりリアルタイムで基地局の動作を起動する機能になり、そのためのアプリはxAppと呼ばれます(図1参照)。
EIAPは標準に準拠したシステムとなっており、エリクソンの提供する従来型の基地局からなるRANだけではなく、今後汎用サーバ上での仮想化をベースにエリクソンが提供するクラウドRAN、更には原則他基地局ベンダが提供するRANにも適用することが可能です。特にクラウドRANは従来のハードウェアベースのRANに比べて柔軟性が高く、きめ細かいRIC機能の実現に、より適しています。なお、SMOやRAN仮想化に関わる標準化は主に、世界の主要通信事業者が主導し多くのベンダも参加しているO-RAN(Open RAN) Allianceが担っています。
5Gは、今後ノン・スタンドアロン(NSA: Non-Standalone)からスタンドアロン(SA: Standalone)への進化に伴い、利用するアプリケーションに応じて通信速度や遅延時間などの要件を満足するネットワーク機能を個々に提供するためのネットワークスライシングが広く利用されるようになります。また、スマートフォンを中心とする人の通信だけではなく、要件の厳しい低遅延・高信頼型を含む様々な産業界での通信に利用されるようになることが期待されます。エッジコンピューティングの機能も充実して、ネットワーク機能が地域毎に分散配備されるようになります。このようにネットワークが益々高度化・複雑化していく中で、SMOへの期待が大きくなっています。エリクソンのEIAPも、2022年後半から世界の通信事業者で徐々に導入されいくことが期待されます。