AIを活用した持続可能な通信:エリクソンが提唱するより緑豊かな6Gの未来
エリクソンは、無限の「つながり」が生活を豊かにし、ビジネスを革新し、持続可能な未来を開拓していく、よりつながりやすく持続可能な世界を実現する取り組みに情熱を注いでいます。このビジョンが、オペレーション、製品ポートフォリオ、サプライチェーンーにいたるバリューチェーンのあらゆる側面に、持続可能性と企業責任を組み込む私たちのコミットメントを推進するのです。2040年までにバリューチェーン全体でネットゼロ排出を実現するという目標を掲げ、エリクソンは業界のステークホルダーと積極的に連携し、持続可能な未来への移行を加速させています。
*本ブログは2025年3月11日投稿の英語版の抄訳です。
Head of Sustainability & Corporate Responsibility for Ericsson in Market Area North America

Head of Sustainability & Corporate Responsibility for Ericsson in Market Area North America
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エリクソンは、Next G Allianceの創設メンバーとして、北米における6Gを含む次世代ネットワークの進展におけるリーダーシップをサポートしています。この取り組みの中心的役割を果たすのが、エリクソンが主宰するATIS Next G Alliance Green Gワーキンググループです。このグループは、通信イノベーションの核心に持続可能性を組み込むことを使命とし、次世代ネットワークが高性能でエネルギー効率に優れ、環境的に持続可能なものとなることを確保することを目指しています。
エリクソンはAIをネットワークに統合し、持続可能性、運用効率、技術革新への継続的な取り組みを推進しています。AIと自動化を活用することで、エリクソンはエネルギー消費の最適化、CO2排出量の削減、環境持続可能な通信サービスの実現を目指しています。ネットワーク性能を向上させながらグローバルなネットゼロ目標と一致するインテリジェントなソリューションを提供し、サービスプロバイダーを支援することを企業の目標としています[1]。
AI技術は、ネットワーク運用を最適化するツールを提供します。AIは変革的な技術ですが、そのライフサイクルにおける環境に与える影響は重大なものとなる可能性があります。AIの採用が進むにつれ、LLM(Large Language Models:大規模言語モデル)や生成AIの利用に依存するアプリケーションのエネルギー需要が急増しています。このエネルギー需要は、データセンターの運用やモデルトレーニング、推論などの計算処理に主に起因しています。AIの活用が複数の業界で拡大する中、運用時のエネルギー需要はAIの環境負荷の相当な部分を占めると予想され、この持続可能性の課題に対処することが不可欠となっています。
「Sustainable AI in Telecom: Promises and Challenges in 6G」 というホワイトペーパーは、Next G Alliance Green G Working Groupによって発行され、このミッションと直接的に一致しています。この文書は、AIが通信業界の持続可能性を推進する革新的な可能性を検証しつつ、その環境影響に対処する方法を模索しています。AIのカーボンフットプリントを削減する方法や、その能力を活用して持続可能なネットワークを構築するといった重要な課題に取り組むことで、エリクソンが提唱する持続可能なイノベーションのビジョンと一致する戦略を強調しています。
このホワイトペーパーの目的は、「持続可能性のためのAI」と「持続可能なAI」の主要な概念を紹介し、AIの効率化における革新的な可能性と、その環境影響を管理する必要性のバランスを取ることの重要性を強調することです。持続可能なAIと持続可能性のためのAIは、AIの実現を形作る二つの重要なアプローチです。持続可能性のためのAIは、ネットワーク運用を最適化してエネルギー消費を削減し、リソース効率を向上させることで、通信ネットワークの環境負荷を最小化することに焦点を当てています。一方、持続可能なAIは、設計、展開、活用の全段階で持続可能性を確保するためにAI技術を実現することに重点を置いています。これらのアプローチはともに、AIが環境影響の軽減と多様な分野における持続可能性の推進という二重の役割を果たすことを理解する上で役立てられます。
持続可能なAIの展開を実現するためには、エネルギー源の選択に焦点を当てることが不可欠であり、特にデータセンター運営への再生可能エネルギーの統合が重要です。再生可能エネルギーで稼働するデータセンターにワークロードを動的に割り当てるか、再生可能エネルギーの余剰期間に高負荷タスクをスケジュールすることで、排出量を大幅に削減しつつ、持続可能性目標を支援できます。これらの戦略により、AIシステムは環境目標を損なうことなく効率的に動作可能です。ホワイトペーパーでは全体的なエネルギー消費に焦点を当てていますが、このブログ記事ではRAN(Radio Access Network)のエネルギー需要についてさらに深く掘り下げています。
RANは、モバイルネットワーク全体のエネルギー消費量の80%を超え、コアネットワークの約12%と比べて大きな割合を占めています[2]。5Gから6Gへの移行の一環として、RANコンポーネントとネットワーク機能の集中型インフラストラクチャーへの移行により、データセンターのエネルギー消費量が増加すると予想されています。この状況下で、AIは急速に進化するテレコムエコシステム全体で、電力使用の最適化、運用非効率性の低減、持続可能性の推進において重要な役割を果たします[3]。
モバイルネットワークにおけるエネルギー消費
AIおよびMLのエネルギー消費を削減する技術
モデルの簡略化
自然から着想を得たモデルは、より小規模でまばらで計算効率に優れている傾向があります。この研究論文[4]では、トラフィック予測、ネットワーク最適化、リソース配分において、オペレーターが異なる地域でのトラフィックルーティングに活用できる予測モデリングとインテリジェントなデータ前処理技術が適用されています。エリクソンはMWC 2024で、無線チャネル推定に革新的なニューロモルフィックAIベースのアプローチを採用した超低消費電力AIをデモし、AIベースの無線受信機活用事例を利用して低計算量・低消費電力AIの実現可能性を実証しました。このデモの核となるニューロモルフィック神経ネットワークは、人間の脳のように機能し、変化を検知した神経細胞のみが活性化され、保持状態の神経細胞には計算が不要です。不活性ニューロンの割合は、従来の深層神経ネットワークと比較してエネルギー効率の向上に直接つながります[5]。こうしたAIアーキテクチャーの開発は、無線通信の未来においてインパクトのあるソリューションを提供するためのキーポイントです。
分散型トレーニング
トレーニングプロセスを複数のデバイスに分散させることで、ファデレーテッドラーニングは中央集約型のデータ処理への依存度を低減し、大規模なデータセットをデータセンターに転送する際のエネルギーコストを削減します。この技術はデータプライバシーを向上させ、ネットワークのエッジでリアルタイムかつエネルギー効率の良いモデリングの更新を直接サポートします。セルラーネットワークでは、リソース認識型ファデレーテッドラーニングのような分散型トレーニングフレームワークが、基地局間でリソースを最適に割り当てることで、モデル精度を維持しつつエネルギー消費を削減します。
アルゴリズムの最適化
プルーニング(Pruning)とは、ニューラルネットワークのサイズを、性能に大きな影響を与えずに冗長なパラメーターや接続を削除することで縮小する手法です。
クオンタイゼーション(Quantization)とは、AIモデルにおける計算や重みの精度を低下させる(例えば、32ビットから8ビットへ)ことで、メモリ使用量を削減し、電力消費を低減する手法です。これらの技術は、計算資源とエネルギーの制約が厳しい組み込みAIシステムにおいて特に有効であることが示されています。
動的リソース割り当て
AIシステムは、推論フェーズでトレーニングフェーズよりも多くの電力を消費する傾向があります。これは、推論が繰り返し大規模に実行され、しばしばリアルタイムで処理されるためです。例えば、AIモデルが検索エンジン、音声アシスタント、またはレコメンドシステムなどのアプリケーションに展開されると、各クエリーやユーザーインタラクションがモデルをトリガーし、1日あたり数百万から数十億回の推論が発生します。トレーニングは一度だけのプロセス(ただし計算負荷は高い)であるのに対し、推論ワークロードは分散システム全体で連続的な計算を必要とし、時間経過とともにエネルギー消費が拡大します。
AIの持続可能性を評価するには、製造工程における内在的な排出量と運用段階における排出量から生じる環境影響を分析する包括的なLCA(Life Cycle Assessment)を実施する必要があります。エネルギー消費量、二酸化炭素排出量、水使用量、資源の枯渇など、これらの指標を評価することで、改善の重点領域と機会を特定します。AIの持続可能性目標との整合性を測定するために、KPI(Key Performance Indicators)は不可欠です。KPIは、推論あたりのエネルギー消費量やトレーニングサイクルあたりの二酸化炭素排出量など、具体的なベンチマークを提供し、組織がパフォーマンスを効果的にトラッキングできるようにします。これらの指標は、持続可能なAIの実践における意思決定を促進し、責任の明確化を支援します。
エリクソンの AI ベースのエネルギー最適化ソリューション
AIソリューションは、ネットワークのさまざまなレベルに適用され、個別のお客様の要件に対応できます。以下のセクションでは、エリクソンが提供するAIベースのエネルギー最適化ソリューションについて説明します。
エネルギーインフラの運用
エネルギー消費の削減とサイト訪問の削減によるCO2排出量の削減は、現在、通信事業者の最優先課題です。エリクソンは、AIと高度なデータ分析を活用してネットワークインフラ全体でのエネルギー消費を最適化するエネルギー管理ソリューション「エネルギーインフラストラクチャーオペレーション [7]」を開発しました。最先端のAI技術を活用し、最も大きな削減効果が期待できる無線ネットワークにおいてエネルギー効率化を実現します。このソリューションは、サイト関連のエネルギー節約だけでなく、運用効率の向上によりサイト訪問回数を削減し、最終的に複数のレイヤーにわたるCO2排出量の削減を実現します。利用条件に応じて、このソリューションはエネルギー関連OPEXを約15%削減、パッシブインフラストラクチャーに関連するサイト訪問を約15%削減、エネルギー関連ダウンタイムを約30%削減可能です。ヨーロッパ、アジア、中東、ラテンアメリカのお客様でトライアルを実施しています。
インテリジェントRAN省電力ソリューション
エリクソンは中東のお客様と提携し[8]、AIとMLを活用した最先端のソリューションを展開し、お客様のネットワーク運用におけるエネルギー消費を大幅に削減しました。これは、通信業界の環境持続可能性に向けた取り組みにおいて、重要な進展を意味します。成功を遂げたPoC(proof-of-concept)では、エリクソンのインテリジェントRAN省電力ソリューション(エリクソンのサービス継続性AIアプリスイートの一部)が、5Gにおける日次電力消費量を約20%削減する能力を示しました。このソリューションは、リアルタイムのネットワークデータを継続的に分析する機械学習予測モデルを活用しています。インテリジェントな意思決定機能により、隣接するセルのデータと活動に基づいて、ネットワークコンポーネントの無効化、有効化、または維持を判断します。これにより、精度の高いエネルギー管理と運用効率の向上が実現され、二酸化炭素排出量と運用コストの削減にもつながります。
AI MIMO スリープ
エネルギー消費の最適化を詳細なレベルやノード単位で実現するには、エネルギー分析機能をサポートするエネルギー計測機能が必要です。MIMO スリープは、低容量で十分な場合にユーザー体験を維持しつつ無駄を最小化する効率的な機能です。問題点は、手動設定が必要で、時間がかかり効率が悪い点でした。この課題を解決するため、エリクソンはAI搭載のMIMO スリープ[9]を開発しました。これはパラメーター設定を自動化し、手動作業を削減しつつ、ノードレベルでの機能性能(KPIとエネルギー削減の両方)を向上させます。MLアルゴリズムはユーザートラフィックを監視、予測、対応します。PoCでは、各サイトで数週間のトラフィックデータにMLアルゴリズムを適用し、サイトごとのスリープモードのアクティベーション制御を可能にしました。MLスリープモード管理では各サイトでエネルギー消費量が14%削減され、手動管理を凌駕し、自動化されたタワーのアクティベーションまたはデアクティベーション時にも顧客のKPIは維持されています。
リモート電気アンテナチルト
今後、RL (Reinforcement Learning)アプローチは、エネルギー節約とネットワーク性能のさらなる向上をもたらすことが期待されます。RLは、モバイルネットワークを構成する動的かつ複雑で高負荷な環境において特に有用です。ネットワーク全般およびエネルギー節約に特化したRLの応用方法は複数存在します。その一例として、エリクソンがRET(remote electrical tilt of antennas)にRLを適用した二つの成功した試験があります[10]。一見するとそこまで複雑には見えませんが、アンテナを傾けるたびに、そのアンテナが属するセルの形状が変化します。これにより、そのセルと周囲のセルのユーザー体験に影響を与え、さらに周囲のアンテナの傾きを変えることがネットワーク全体に連鎖反応を引き起こします。このため、単一のライブネットワークにおいて、ERPの削減を最適化し、エリクソンとパートナーの通信事業者がパフォーマンスに影響を与えずにDL送信電力の20%削減を実現したことは、特筆すべき成果です。
エリクソンのサイトエネルギーオーケストレーション
エリクソンのサイトエネルギーオーケストレーションのソリューションは、AIとMLを活用して通信事業者向けにインテリジェントなエネルギー管理を提供します。このソリューションは、ML、AI RANのアプリケーション(rApps)、RANデータ、外部データとのインターフェースを活用し、データ駆動型の意思決定、予測メンテナンス、リアルタイムのエネルギーオーケストレーションを実現することで、ネットワークのエネルギー消費を最適化します。これにより、通信事業者はピーク負荷の削減と負荷シフト戦略を実施し、運用コストを削減しながら持続可能性を向上させることができます。RANの要求と外部条件に基づいてエネルギー源を動的にオーケストレーションすることで、通信事業者はネットワーク性能を確保し、コストを削減し、カーボンフットプリントを最小化できます。このソリューションは、グリッドのレジリエンスを支援し、再生可能エネルギーへの移行を促進するエネルギーグリッドバランスプログラムに参加することで、CSPに新たな収益機会を創出します。
エリクソンのアプローチは、運用パフォーマンスと環境責任を一致させ、AI駆動型エネルギー管理がビジネスと持続可能性の両方のメリットを推進する方法を示すものです[11] 。
すべての時間がネットワークのアースアワー
References
[1] AI in RAN enhance network performance of CSPs
[2] GSMA Intelligence, “Going Green: benchmarking the energy efficiency of mobile networks,” Feb. 2023. https://data.gsmaintelligence.com/api-web/v2/research-file-download?id=74384072&file=280223-Going-Green-Second-Edition.pdf
[3] Bothe, H. Farooq, J. Forgeat and K. Cyras, "Time-Series Prediction using Nature-Inspired Small Models and Curriculum Learning," 2023 IEEE 34th Annual International Symposium on Personal, Indoor and Mobile Radio Communications (PIMRC), Toronto, ON, Canada, 2023, pp. 1-6, doi: 10.1109/PIMRC56721.2023.10294056.
[4] 6G straight from the Ericsson labs: Is it too early?
[5] Energy-Smart 5G Site: Sustainable Network Solution
[6] Ericsson launches AI-powered Energy Infrastructure Operations
[7] Ericsson and Umniah deploy AI energy-saving solution
[8] Automating MIMO - MIMO Machine Learning and AI
[9] Improving energy efficiency in networks by AI
[10] For CSPs, intelligent energy management is key for optimizing network performance and unlocking new revenue streams. | Fierce Network
[11] Intelligent Site Energy Orchestration Solutions
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