ネットゼロの実現
June 2022
気温の上昇を1.5℃以内に抑えるために残された時間はわずかであり、今すぐネットゼロを達成するための行動を起こすことが、これまで以上に重要になっています。産業界は、遅くとも2050年までにネットゼロに到達することを約束しました。
Why?
IPCC(The Intergovernmental Panel on Climate Change、気候変動に関する政府間パネル)は、「住みやすい未来を確保するため閉じていく窓(急速になくなりつつある時間)」について警告しました。今こそネットゼロという意欲的な目標を実行し実現する時です。当事者個々人が一人で解決することはできません。すべての人々による具体的で明確な行動を伴う、集合的なアプローチが必要です。
How?
モバイル産業が気候危機に対処するために実施できることが二つあります。まず、セクターとしての急速な脱炭素化ですが、エリクソンは自社の意欲目標を通じて支持しています。つぎは、他のセクターによる排出量削減に対する貢献です。
重要なポイント
通信産業は急速に脱炭素化しています。その技術革新と協調的アプローチの双方が、効率向上を生み、新しい持続可能な運用プロセスを可能にすることで、他セクターの脱炭素化にも貢献します。
通信事業者は、研究とイノベーションの結果として、またネットゼロに到達するという意欲目標を通じて、ネットゼロへの決定的なステップにおいて自社の操業、サプライチェーン、および排出による炭素排出量を削減しています。
ネットゼロ排出量に向けた決定的な一歩として、Deutsche Telekom(ドイツテレコム)はエリクソンと提携し、商用モバイルブロードバンドサイトに太陽光発電を取り込み、ピーク時でもサイトの総電力の三分の二以上に貢献しています。
通信業界は、協力によって再生可能エネルギーの可用性向上をサポートするなど、最大の気候問題に取り組む際に前向きな変化を推進しています。
持続可能性を価値創造要因と見なすことにより、当セクターは世界で最も複雑な気候課題の一部に対する革新的ソリューションを開発し、持続可能な未来を開拓しています。
PCC(The Intergovernmental Panel on Climate Change、気候変動に関する政府間パネル)は、気候変動に関連する科学を評価するための国連機関です。2022年2月に公表された6回目の評価では、「住みやすい未来を確保するための窓が急速に閉じている」と警告しました。本レポートは、ネットゼロへの意欲がこれまで以上に普及する必要があり、重要であることを再確認しています。
2021年、エリクソンは、2040年までにバリューチェーン全体でネットゼロになるという長期的な意欲目標を正式に設定しました。この大きな目標を達成すべく、エリクソンはパリ協定で掲げられた1.5°Cという目標に向けて前進しています。これらの目標を達成するための優先事項は、バリューチェーン全体で排出量を削減・回避ことおよび再生可能エネルギーへの投資です。1
ICT業界のイベントMWCバルセロナ2022で、GSMAの気候変動対策責任者、スティーブン・ムーア(Steven Moore)と、通信業界がいかにネットゼロの未来実現に貢献できるかという意欲目標について話す機会がありました。
1- 不可避となる排出に対処する最後の手段として、エリクソンは、承認されている炭素除去クレジットを通じて大気から残存排出量を除去するよう努めます。
GSMAは、有益なビジネス環境と社会の変化の基盤となるイノベーションを発見、開発、提供すべく、モバイルエコシステムを統合しているグローバル組織です。そのビジョンは、人々、産業、社会が繁栄するための、コネクティビティの力を全て開放することです。
モバイルエコシステムと隣接する産業全体のモバイル事業者と組織を代表するGSMAは、産業サービスとソリューション、Connectivity for Good (良いことにコネクティビティを利用すること)、Outreach(積極的支援)の三つの大きな柱を通してメンバー企業向けに実行しています。
ネットゼロとは、私たちが大気中に放出する排出量と、私たちが取り除くことができる排出量の間でバランスをとるという意味です。つまり、ビジネス、生活、仕事で、これまでとは非常に異なる方法に移行し、既存とは全く異なるタイプの経済社会を確立するということです。
気温上昇を1.5°C以内に抑える機会は限られているため、今すぐネットゼロを達成するための行動を取ることが大変重要です。これを超えると気候に多くの不可逆的な変化が起こり、文明という意味で私たちに非常に大きな影響を与えることを示す最新の国連報告が出たばかりで、これは必要不可欠な我々の責務です。
「テクノロジーにより、私たちがより持続可能な形で、自然と調和して生きることができる未来が見えます」
GSMAの気候行動責任者、スティーブン・ムーア
気候危機に対処する上で、通信業界はどのような役割を果たさなくではならないでしょうか?
モバイル産業が気候危機への対処に貢献するためにできることが二つあります。1点目は、セクターとして急速に脱炭素化することであり、私たちは意欲目標を通じてそれを支持しています。
これは2019年に私たちが約束したことですが、産業として遅くとも2050年までに炭素排出量からネットゼロにします。それが実現すれば、地球規模の温暖化を1.5℃に抑制する上で私たちの役割を果たしたことになります。
そして現在、モバイル産業全体の多くの事業者や多くのサプライヤーが、2030年までに炭素排出量を急速に削減するという目標を設定しています。これは彼ら自身の操業からの炭素排出量だけでなく、彼らのバリューチェーン全体の炭素排出量についての話です。つまり、各社のサプライチェーンに関する排出量と、彼らの顧客が製品やサービスを使用する時の排出量が含まれます。
モバイル産業ができることの2点目は、他のセクターが排出量を削減できるよう支援することです。私たち自身の排出量を指す通信セクターのフットプリントについて話をしていますが、当該セクターのハンドプリントについてもお話します。それが他のセクターの脱炭素化を支援できる方法です。そして、モバイルテクノロジーは私たちがこれを行うためにどの様に役立つでしょうか?それにはスマートコネクティッドテクノロジーを利用します。自動化されたビル管理システムにより、スマート化したビルにできる可能性があり、これにより使用電力量を削減できます。またスマートコネクティッドカーで、移動・輸送によって実現する可能性があります。私たちは低炭素な方法で移動が可能になります。または、より効率的な生産ラインを作ることができるスマート製造もあります。
これらスマートテクノロジーから生み出すことができる節約は、モバイル産業自体のフットプリントの最大10倍になる可能性があることがわかっています。これは排出量の削減を迅速に支援することに大きく貢献できる可能性があります。
モバイル業界はネットゼロにコミットメントを持っており、実際その達成に貢献するために実施していることが数多くあります。大きな焦点はエネルギー効率です。毎年より多くのデータがネットワーク全体で転送されるため、特にネットワークを可能な限りエネルギー効率が良いものにすることが本当に重要です。2Gから3G、3Gから4G、そして現在の5Gまで連続しているテクノロジーは、以前のテクノロジーよりもはるかにエネルギー効率良いことがわかっています。つまり、ネットワーク上のデータの各ビット伝送に必要なエネルギーがはるかに少なくなっているということです。
ネットゼロに対応するために私たちが注力しているもう一つの大きな分野は、再生可能エネルギーへの切り替えです。すべてのネットワークでエネルギーが使用されることはわかっていますが、エネルギーはクリーンで再生可能なエネルギー源から供給される必要があります。スペースがある特定の場所でオンサイトの再生可能エネルギーに投資することを意味しますが、私たちのセクターからのインプット無しには不可能になるであろう、大規模な再生可能プロジェクトへの投資を意味しています。多くのモバイルネットワーク事業者やサプライヤーがこれら大規模投資を行っているため、クリーンで持続可能な方法で100%再生可能な電力および電力ネットワーク、インフラを実現できます。
GSMAが産業のネットゼロへの移行に貢献できる最大の方法の一つは、全ての主要ステークホルダーを集結し、協力してこの課題に取り組むようにすることです。2019年、ネットゼロの課題に取り組むためメンバーをまとめ、Climate Action Taskforce(気候変動対策タスクフォース)を創設しました。当タスクフォースには現在、世界の全地域とほとんどの国を代表する50を超えるメンバーがいます。私たちは、エネルギー効率などネットゼロの最大の問題の一部に共に取り組んでいます。私たちはよりエネルギー効率が良いネットワークに移行する必要があり、テクノロジーの各世代でそれを目にしています。5Gはネットワーク上でのデータの各ビット転送に最大90%少ないエネルギーを使用しますが、これは、私たちがネットワーク上ではるかに多くのデータを使用しているため、本当に重要なことです。
エネルギー効率改善、再生可能エネルギーの使用増加、バリューチェーン全体を関与させること。これらの課題を個々の企業が克服することはできません。彼らは、私たちが適正な解決策を見つけるために協力的な方法で共に取り組む必要があります。
Climate Action Taskforce(気候変動対策タスクフォース)を通じ、私たちは、これらの課題に対する解を見つけるべく、企業を集結させることを目指しています。
他の当事者にはどのような対策が必要でしょうか?
一部の国では、今後10年間で急速に脱炭素化するための政策すら存在しないため、政府、規制当局、政策立案者からの支援が必要です。再生可能エネルギーを例にとってみましょう。産業として、私たちが生成できるオンサイト再生可能エネルギーの量には限界があります。その結果、確立されたエネルギー市場を通じて再生可能エネルギーにアクセスする必要があります。しかし、一部の国では、確立されたエネルギー市場を通じて再生可能エネルギーを購入することが不可能です。このことに私たちは政府と協力して取り組んでいます。規制環境を変え、再生可能エネルギーにアクセスでき、炭素削減目標を達成できるよう、私たちに協力してもらうよう要請します。/p>
私たちは、循環型経済は課題であると同時にチャンスでもあると考えています。循環型経済とは何でしょうか?それは、私たちが資源を採掘し、モノを作り、その結果、貴重な原材料を失い、それらを無駄にする廃棄をする直線型経済から、資源を採掘し、作り、そして製品やデバイスを再製造、リサイクル、再利用、そして再生するタイプの経済に移行することを意味します。今後数年間で私たちと産業にとってますます重要な重点分野になっていくと考えています。産業内の大手企業の一部が循環型経済目標を2030/2040に設定していることを既に確認しています。産業を直線型モデルから循環型に移行するには多大な革新と変革が必要になるでしょう。しかし、ネットゼロという意欲的なカーボン目標を達成できるかどうかが肝要です。私には、すべての都市にクリーンな空気がある未来が見えます。そこでは、テクノロジーを使って安全に低炭素を使用した手段で移動ができます。原生林の素晴らしさにアクセスでき、それらが将来失われる心配もありません。私たち全員がより持続可能に、そして、より自然と調和して生きることができます。
「私には未来が見えます。私たち全員がより持続可能に、そして、より自然と調和して生きることができる未来が」
GSMA気候対策責任者、スティーブン・ムーア
寄稿者: スティーブン・ムーア、GSMA
スティーブン・ムーアは、モバイル業界団体 GSMA の気候行動プログラムの責任者です。
スティーブンは環境技術の修士号を取得しており、持続可能な開発に熱心に取り組んでいます。彼は、過去 13 年間気候行動に取り組んできた経験豊富な環境専門家です。スティーブンは、革新的な持続可能性の新興企業である dcarbon 8 の気候コンサルタントとしてキャリアをスタートしました。その後、デロイトで多国籍企業のクライアントに持続可能性戦略についてアドバイスした後、ブリティッシュ・テレコム (BT) に入社し、同社の受賞歴のある環境持続可能性プログラムを推進しました。2009 年、スティーブンは GSMA に入社し、同社の気候イニシアチブを主導しました。
