物理世界と仮想世界を橋渡しするデジタルツイン
June 2022
物理オブジェクト、プロセス、システムの動的な仮想レプリカであるデジタルツインは、リスクのないテストとプロトタイピング、効率・生産性・安全性の向上、市場投入までの時間の短縮を実現します。
Why?
デジタルツインは仮想ラボとして予測と予知保全を可能にし、ダウンタイム、無駄、コストを削減すると同時に、サプライチェーンの効率を高め、二酸化炭素排出量の多い移動の必要性を減らす効果的なリモートコラボレーションを促進します。
How?
接続性、クラウドコンピューティング、AI、リモートセンシング分野のイノベーションの産物であるデジタルツインは、常に更新される実世界のデータのフローに依存して物理的な対応物に同期します。
重要なポイント
デジタルツインは、生産性、安全性、品質を向上させ、出張の必要性と無駄を排除することで持続可能な目標達成を支援します。
デジタルツインはエリクソンの工場で重要な役割を果たし、計画外のダウンタイムを約50%削減しています。
世界のデジタルツイン市場の価値は、2026年までに482億ドルに達すると予測されています。
アンテナ/基地局設置の「調査完了」から「設計完了」までのリードタイムが50%短縮されました。
デジタルツインは「サイバーフィジカル連続体」を形成します。ここではどちらかの現実の出来事がもう一方方に影響を及ぼし、仮想と現実の区別が曖昧になります
人々は実生活の仮想レプリカによって場所、オブジェクト、システムのシミュレーションを生成し、リスクや混乱なしにそれらの実験することができます。
たとえはあなたが風力タービンの新しい設計を試したいエンジニアだとしましょう。離れた場所にある実物を使うよりも仮想世界でこれを試験する方がいいと思いませんか。一連のリモートファクトリーを担当していて、それぞれの性能を比較したい場合はどうでしょう。デスク上ですべての現場にアクセスできればとても便利ですね。
デジタルツインは、現実の世界で判断を下す前に、変更や改善の影響を調査するためのテストベッドや仮想的な視点を提供します。デジタルツインが熱狂的に歓迎される理由はこれです。
5G、センサー、拡張現実デバイスなどのテクノロジーの融合により、このテクノロジーが広く利用できるようになったのは、ごく最近のことです。1960年代にNASAはその宇宙ミッションのために、制御された環境で機器を試験し、最終的に1970年のアポロ13号の打ち上げをサポートするために、二重化システムを導入しました。1992年にデイヴィッド ガランター(David Gelernter)は、自著のミラーワールド(Oxford University Press、USA)で、コンピューターシステムが相互接続される未来において、システムが生成した画像を相互作用させて実世界を制御することで何が可能になるかを説明しました。
デジタルツインの実際のコンセプトを構築したのは、2002年に製品ライフサイクル管理の研究にそれを導入した、マイケル・グリーブス(Michael Grieves)博士です。それ以降のデジタルツイン実現のための取り組みにより、港や工場などで、複雑なシステムの可視化と自動化がすでに実現されています。デジタルツインは最も有望な技術トレンドの一つであり、2026年までにその潜在的な市場価値は世界全体で480億米ドルに達すると予測されています(出典:MarketsandMarkets)。
モデリングとシミュレーション
ところでデジタルツインの定義はどのようなものでしょう。インターネットで検索すると膨大な数の定義が見つかります。デジタルツインは、たとえば「実際には存在しない機能で強化されている資産とプロセスのソフトウェア表現」と定義できます。あるいはもっと簡単に、「現実を予測する、または現実と相互作用するために利用できる何かの仮想コピーとそれに関連するプロセス」と説明されることもあります。
リビングルームの仮想レプリカを入力することを考えてみましょう。すべてが正確にあなたの認識している位置にありますが、それはデジタルな形で表現されています。家族が自宅でTVの電源を入れると、仮想化されたデジタルの部屋のTVもほぼリアルタイムで電源がオンになります。つまり二つの異なる現実の間でアクションを転送できるのです。デジタルツインの基盤にあるのは、現実世界のイベントに絶えず適応し学習する仮想世界において、多数の物理的要素を複製する能力です。
デジタルツインをシミュレーションと区別することも重要です。これらは同じ特性を共有していますが、いくつかの重要な違いもあります。
シミュレーションは設計者の想像力によって作られるもので、設計者はそれらを用いて、多くの場合はオフラインでさまざまなシナリオの原因と結果を分析します。ほとんどの場合、シミュレーションは1回限りであり、設計と分析調査を支援するために使われます。一方でデジタルツインは、現実世界と仮想世界の間で情報をタイムリーに同期することによって稼働し、どちらの世界の変化にも適応します。シミュレーションは主に理論的なものですが、デジタルツインは具体的で実際的なものです。
同様に、デジタルツインはメタバースといくつかの類似点を共有しています。メタバースは人々が仮想的に対話できるデジタル空間です。メタバースは開発者によってゼロから構築され、通常は仮想現実(未来の風景やおとぎ話の城など)を提示しますが、デジタルツインは実世界のレプリカを生成するもので、たとえば仮想空間と物理空間を定常的に行き来するデータによって、生きたり死んだりします。デジタルツインは現実世界の反映であって、二つの世界の同期を維持するために定期的に更新されるものととらえることができますが、メタバースが提示する世界は、現実世界とまったくあるいは部分的にしか似ていないこともあります。
デジタルツインの四つの特徴
- 対象となる実世界のオブジェクトの観測、状態、関係性を表すデータモデルとデータ構造
- デジタルツインを生成するために実世界のオブジェクトからデータを転送すること。通常これは、デジタルツインにおいて正確で最新の視点を実現するために継続的に実行されます。
- デジタルツインの機能と洞察をフルに活用するためのデータ分析ツール。これには単独または複数のセンサーからの単純なデータ収集や、将来の動作を予測し、さまざまなシナリオやその他の分析タスクをシミュレートするために使われる複雑なアルゴリズムなどがあります。
- さまざまなAPI、GUI、その他のヒューマンインタフェースを介してデジタルツインと対話する手段。これらの手段を通じて得られた洞察は、直接またはデジタルツインを介して、実世界でより良い意思決定を行うために使われます。
このように幅広い機能を備えたデジタルツインには、温度センサーや流量検出器などの主システムの最も単純な要素から始め、時間とともに生成・進化させることができるさまざまなアプリケーションと種類があります。デジタルツインはいくつかの異なるコンポーネントを組み合わせることでさらに進化し、それらの相互作用の様相や、コンポーネントを個別に見ても得られない新しい情報をもたらします。たとえば特定の場所の完全なデジタル表現があれば、デジタルツインは、生産性、品質、安全性を向上させることができます。
いずれも、場所を問わず他の人と協力してデジタルツインにアクセスできます。異なるデジタルツイン間を制限なく接続すれば、システム間の学習が可能になり他の場所や同様の産業セグメントからさらなる洞察が得られることでしょう。
エリクソンの現在の研究の多くの契機となったのは、進行中のデジタルトランスフォーメーションにおけるモバイル接続の可能性を最大限に引き出すことへの関心です。デジタルツインがこの変革に主要な役割を果たしていることは、多くの人が認めています。テキサスにあるエリクソンの工場では、デジタルトランスフォーメーションプログラムの一環として導入されたSMA(Surface Mount Assembly)ラインのデジタルツインにより、計画外のダウンタイムが50%減少し、廃棄物が30%削減されました。
エリクソンはイタリアのリボルノ港と提携し、デジタルツインを使って技術革新によって運用を最適化する方法を調査し、経済的、社会的、経済的利益の実現性を特定しました。これは対象に取り付けたカメラ、GPS、その他のセンサーを介して港湾活動を継続的に監視することで実現されました。この取り組みの結果行われた変更は、目に見える影響をもたらしました。
- 船舶の作業完了時間が推定13%、フォークリフトの使用量が17%、CO2排出量が8%以上削減されました。
- 中規模の港湾貨物ターミナルが実現するコスト削減は、年間約6,000万米ドルと見積もられています。
- リボルノ港の調査では、接続性向上の直接的な結果として、環境の持続可能性と人員の安全に関連する13の直接および間接的な利益が得られた証拠も示されました。
- 資産と性能のトレンドをサイト全体で監視し、予知保全、予防保守、一部のリモート保守を実現します。
自動車生産においては、世界各地に拠点を置く設計チーム、エンジニアリングチーム、生産チーム間のコラボレーションを強化し、開発ペースを加速するためにデジタルツインが使われています。
BT、エリクソン、NVIDIA、自動車用バッテリーメーカーHyperbatのコンソーシアムでは、デバイスの3D等身大レプリカが工場フロアを可視化し、人々がそれを共有し、仮想化、制御されたスペースで操作できるようにしています。Hyperbatは製造プロセスを効率化すると同時に、さまざまなチームが多様な製品やプロジェクト管理システムを使った結果として生じる複雑性を排除できました。
最先端のヘッドセットメーカーであるVarjoの創業者兼CTO、ウルフォ・コントーリ(Urho Konttori)氏は、自社のチームにもたらされたメリットについて述べています。
「チームはもはや本社や工場のサテライトのようには感じられませんが、共通の仮想空間内で完全に接続された単一のアイテムであり、出張の必要がありません」
Varjo創業者兼CTOウルフォ・コントーリ
より多くのデバイスとアプリケーションが接続され、業界と企業がデジタルツインを使うようになると、システムの接続性がもたらす可能性は無限に広がります。
それと並行したAIアルゴリズムのデジタルツインへの組み込みは、あらゆる種類のアプリケーションやサービスに新しい技術とソリューションを提供できる可能性があり、産業にとっての重要性が高まります。ただしこれを実現するためのデータ伝送量と伝送頻度に起因して、ネットワークに求められる要件はよりいっそう高度なものとなります。
抽出する十分なデータがない場合でも、デジタルツインはさらなる知性を獲得できる上、トレーニング能力も備えています。この場合AIアルゴリズムによってデジタルツインの意思決定を継続し、センサーやネットワークの位置に関わる制約を補うことができます。
現時点で、デジタルツインの可能性の認識を高めるための取り組みはまだあります。エリクソンIndustry Labの最近の報告によると、デジタルツインのメリットとして知られているのは「メーカーが気づかなかった機能」ですが、デジタルツインを導入したメーカーはすぐにそのメリットを認識します。
以下の動画でデジタルツインによる建設と医療分野の学習の効率強化についてご紹介します。
未来を垣間見る
結論
今後数年間のデジタルツインの進化によって、サイバーフィジカル連続体に向かう、二つの異なる実現可能なことが統合され、それぞれの世界の行動が、他の世界に影響を与えることができるようになるでしょう。二つの世界が絶えず監視し、他方から学び合い、適応するデジタルツイン、それらがもたらすものの可能性は無限にあるように思えます。
デジタルツインは何らかの形で、あなたやあなたが働く場所、あなたの周りの世界に影響を及ぼすでしょう。
Imagine Studioにいるエリクソンのヨン・ギャンブル(Jon Gamble)が、革新的なテクノロジーを使ってデジタルな現実を構築する方法について説明します。
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