米粒よりも小さな何千ものデバイスが農場の畑、工場の床、あるいは私たちの体内に広がり、命を救ったりビジネスを変革したりするデータを送信する光景を想像してみてください。
これら機能の応用はあらゆる産業に及ぶと考えられています。もしあなたが何千エーカーにも及ぶ農場を経営するとして、作物や牛の健康状態をどのようにチェックするでしょうか。ゼロエネルギーデバイスでは、携帯電話やタブレットのボタンをクリックするだけでこのようなデータに簡単にアクセスできます。
果物や野菜の手入れが必要なことや収穫の時期、あるいは土壌に問題があることまで教えてくれることを考えてみてください。
接続を要するデバイスの数は、今後数年間で数十億個から数兆個へと拡大します。このサイズと規模になると、低コストかつ小さな消費電力で接続できるセンサーが必要不可欠です。
これを実現するためには、産業において何が可能なのかを真に理解するための時間、リソース、研究が必要です。さまざまなセンサーからの膨大な量のデータを扱う力があれば、あらゆる可能性が広がります。
今後数年間で、接続を必要とするデバイスの数は数十億から数兆に増加します。

ゼロエネルギーデバイスは、バッテリーや手動による充電を必要としません。これらのデバイスは周囲の環境からエネルギーを集めて発電できます。未来のデバイスは米粒ほどの非常に小さなサイズとなり、読み取り値と測定値のデータを報告するセンサー、物体や生体の位置を報告するトラッカー、または他の機械の動作を促すアクチュエーターの形で提供されるかもしれません。
ゼロエネルギーデバイスの価値
ゼロエネルギーデバイスの導入は、デバイスの実行と保守に必要なコストと電力の両方を大幅に削減し、デバイスのスケーラビリティを高める可能性があります。これらのデバイスからデータを収集することで、エネルギー消費を増やすことなく、生産性の向上、汚染の低減、豊かなライフスタイルを推進できる可能性もあります。
ゼロエネルギーデバイスは、物理世界とデジタル世界をより緊密に融合し、それぞれの世界が互いに学習し、適応し、応答できるようにするうえで有用です。デジタルツインはこの開発の鍵を握っていますが、ゼロエネルギーデバイスは、こうした現実世界のデジタル表現を構築するために必要なセンサーデータを提供できます。ゼロエネルギーデバイスの数が増えるにつれて、新しい知見と詳細な情報が得られます。
ゼロエネルギーデバイスをどうやって実現するか
ゼロエネルギーデバイスの開発者は、費用対効果の高い方法で最大限の電力を得るために、最も多くのエネルギーを集める方法にフォーカスする必要があります。ネットワークは、無限の接続性、認知機能、さまざまな条件下においてリアルタイムで拡張、適応、稼働する機能を備えた、何百万ものデバイスを持続的に処理できなくてはなりません。
これは非常に困難な作業のように聞こえますが、不可能ではありません。エリクソンは最大限の可能性を追求するために関係者と協力しています。
ゼロエネルギーデバイスはどのように動作するのでしょう
環境、ネットワーク、保守といった要件の観点から、影響を最小限に抑えることが重要です。
各デバイスは、アンビエントエネルギーから電力を供給される必要があります。たとえば太陽電池は、それが生成する電圧が特定の閾値を超えなければ役に立ちませんが、生成される電圧が不十分であることが多く、この領域の改善は重要な課題です。蓄積されたアンビエントエネルギーは、次の二種類のデバイスで使用できます。
- バックスキャッター機能を備えたパッシブゼロエネルギーIoT(Internet of Things)デバイス。これらはエネルギー貯蔵機能のないバッテリーレスデバイスです。
- エネルギーハーベスティング機能を備えたアクティブゼロエネルギーIoTデバイス。これらのデバイスのエネルギー貯蔵機能は限られていますが、手動での再充電や電池交換は必要ありません。またアンビエントエネルギーが短期間供給できないときでも動作します。
ゼロエネルギーデバイスとネットワーク技術をレベルアップすることで、接続が秘めた無限の可能性が解き放たれます。

ゼロエネルギーデバイスが秘めた可能性を完全に解放するには、ホリスティックな取り組みが必要です。デバイス自体については、エネルギーハーベスティング技術、パッケージング、低電力集積回路の設計を進歩させる必要があります。エリクソンはMIT(Massachusetts Institute of Technology)と協力し、無線信号自体を収集する新素材と超低エネルギー設計を模索しています。
IoTシステム開発企業のEveractiveは、技術開発を進めているエネルギーハーベスティング企業の一例です。共同創設者のデビッド・ウェンツロフ氏(David Wentzloff)は、ゼロエネルギーデバイスの利点について次のように述べています。 「ゼロエネルギーデバイスは、現在の4G IoTセルラー製品と比較して10,000倍以上の電力削減が実現できると期待しています。そして主に最大ダウンリンク遅延について、その機能を失うことなくこれを実現します。ゼロエネルギー無線ハードウェアは、より多くの時間にわたって稼働できるため、接続性の向上、遅延の短縮、デバイスのプロビジョニングと展開が簡素化されます。」
「ゼロエネルギーデバイスは、現在の4G IoTセルラー製品と比較して10,000倍以上の電力削減が実現できると期待しています。」
Everactive共同創設者デビッド・ウェンツロフ

Everactiveは工場や産業用施設に、観測の目的で15,000以上ものバッテリーレスセンサーを配備しています。接続を要する製品の開発者は、以前はデバイスの寿命とデータ品質(測定頻度に依存)のどちらかを選択することを余儀なくされていましたが、Everactiveは電子機器の電力要件を低減し、無限に補充可能なエネルギーソースを使うことで、高品質のデータを確実に配信できるようになりました。
以前の3GPPセルラー技術は、特にゼロエネルギーデバイス用に設計されたものではありませんでした。6Gの開発が進む中、エネルギー効率と接続性を最適化するネットワークの設計にはデザインの標準化が関係してくることでしょう。
何十億ものデバイスを管理する必要がある将来のネットワークアーキテクチャーには、エネルギー効率と接続性を最適化するよう設計する必要があります。すでに6G以降の革新的なIoT技術の基盤となるであろう6Gセルラーによるゼロエネルギーデバイス技術が登場するための市場環境の機は熟しています。
人工知能は、ゼロエネルギーデバイスの利用をより促進します。AI機能を使えば、個々のセンサー自体の性能が比較的低くとも、シンプルで低コストのセンサーから収集された情報から複雑で高精度の結論を引き出すことが可能です。
たとえば建物内の多数の低解像度の湿度センサーからの情報をAIで解釈して組み合わせれば、潜在的に危険な環境に人を送り込むことなく、漏水や屋根の水漏れの箇所を、重大な構造的損傷を引き起こす前に迅速かつ正確に見つけることが出来ます。
これはエリクソンが違いを生んでいる分野です。
山火事予防
小さな粒子形のゼロエネルギーデバイスをパトロール中の無人航空機に接続すれば、潜在的な山火事について警告を発することで、予防措置を実施できる可能性があります。技術が十分に進歩すると、これらの生分解性デバイスは目的を果たした後に痕跡を残さず完全に分解するようにできるかもしれません。

身体のメンテナンスのサポート
人々の姿勢を自動的に修正したり、運動するように促したりするスマートウェアは、医療業界を変革する可能性があります。衣類の繊維に埋め込まれたセンサーは、ゼロエネルギーデバイスに重要な情報を送信し、姿勢を調整または修正するように人に警告します。
健康と心
医療用アプリケーションは、モニタリングや病気の診断から、ウェアラブルや埋込型のゼロエネルギーデバイスやセンサーにまで及びます。こうしたセンサーやデバイスは、人間が生成するエネルギーのみで動作するため、手動で充電する必要がありません。

農場経営と農業
農場経営者は、基地局に接続するセンサーを使って、家畜や作物の生育状況を追跡できます。農場経営者はモバイルまたはタブレットを介してセンサーに接続し、重要な情報を受け取ることが可能です。これは、たとえば群れから外れた牛や獣医師の診察が必要な病気の牛を見つけるなどの目的に利用できます。/p>
未来の倉庫
在庫配送に関する情報をスキャンすることで、在庫番号を手動で変更することなく、正確で迅速な自動在庫チェックを実行できます。アンビエントIoTデバイスは、倉庫内の5Gネットワークに在庫情報を通信できます。この情報は、在庫レベルを自動的に更新するコンピューターやタブレットからアクセスされます。
製造業と鉱業
ReVibe Energyの自己発電型センサーシステムは、採掘されたさまざまな岩石や鉱物などの原料を分離する機械である振動スクリーンを監視します。振動装置は、激しい振動によってケーブルが緩む可能性があるため、ケーブルやワイヤーではうまく機能しません。一方で振動は、無駄な副産物であるエネルギーを回収する機会を生み出します。
ゼロエネルギーデバイスを導入することにより、ReVibe Energyの振動スクリーン内のバッテリーを持たないセンサーに「無限のバッテリー」が提供され、膨大な量のユーザーにとって貴重なデータが生成されます。このデータは、潜在的な問題の警告、保守スケジュールの通知、性能の最適化に役立ちます。

未来の建物
建物やオフィスを監視して、将来の問題を自動的に検出し、壁に発生した亀裂などの予防保守を実行できます。レンガやセメントに埋められたセンサーからのデータにアクセスすることで建物の寿命が延び、居住者や従業員は安全に建物内に住むことができます。
NCC(Nordic Construction Company)の戦略・研究・イノベーション部門責任者、フレドリック・ヴァーナーソン(Fredrik Vernersson)氏は次のように述べています。「建物やインフラを建設する場合、私たちは建設段階でのプロセスの性能と、使用中の建造物の性能の測定に熱心に取り組んでいます。前者の例としては、コンクリートの乾燥プロセスを制御するために使う水分と温度のセンサーがあります。後者の例としては、温度センサーや「CO2」センサー、および負荷変動に起因する橋、道路、トンネルの長期的な挙動を非破壊的な手段で測定するセンサーがあります。」
これらすべてのデータを使用することで、リアルタイムで適応、応答、監視するデジタルレプリカを生成できます。これによりユーザーは、仮想世界でデータを操作および調整して、物理的な同等物に影響を与えることなく、その影響や複雑性を可視化できます。こうしたデジタルツインは、効率を高めつつ生産プロセスの無駄とコストを削減するのに役立ちます。
2030年までに、在庫管理と産業用監視はゼロエネルギーデバイスの主要市場になるでしょう。自動在庫チェックを活用すれば手動チェックの必要性がなくなり、在庫の不一致を防ぎ、結果的に費用を節約し、倉庫業界の労働者のストレスの軽減にもつながります。
これらは多くの例のほんの一部です。このテクノロジーには私たちがまだ想像すらできない用途があるはずです。
ゼロエネルギーデバイスは、人間と機械の接続性に革命をもたらし、より持続可能でインテリジェントな未来を実現します。ネットワークの進化につれて急激に増えるであろうゼロエネルギーデバイスは、さらに多くの機会への扉を開くでしょう。
これにより建設業から農業に至る様々な産業は、時間と費用を節約し、技術開発のさらなる発展へと注力できるはずです
ゼロエネルギーの未来によってあなたの人生やビジネスの何が変わるのか、想像してみてください。

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