私たちが働き、創造し、協力する方法は、将来は屋内接続によって支えられることになるでしょう。
屋内接続によってリモートの同僚がオフィスであなたと一緒にいると感じ、その同僚たちは、会議中にホワイトボードに書き込んだりスケッチしたりしている光景を想像してみてください。エリクソンリサーチは、仮想のコーヒー休憩中に同僚が焼いたケーキの匂いを感じ、それを味わうことさえ可能になるかもしれないとのべています。
ワークスペースはあなたの特定のタスクや気分に適した温度、プライバシー、設定を伴って、あなた専用に設計されます。
近い将来のオフィスは、AR(Augmented Reality)、デジタルツイン、高解像度の動画会議など、より多くのテクノロジーをサポートできなくてはなりません。オフィスビルはスマート化され、テクノロジーを使ってエネルギーを節約、安全を確保し環境を管理します。これにはエネルギー効率とコスト効率に優れた高性能の屋内接続が必要になります。
どうすればこれを実現できるのでしょうか。企業、建物の所有者、CSP(Communication Service Providers)が未来のオフィスを実現する方法について探っていきましょう。
「オフィスは、スマートフォンが辿ってきたシンプルなデバイスからパーソナライズされたデジタルハブへの進化を追体験することになるでしょう。」

不動産にとっての価値は相変わらず「立地」がすべてかもしれませんが、接続性は急速に未来のオフィスの中核をなす要件になりつつあります。
スウェーデンの大手不動産会社Vasakronanのワークプレイス戦略責任者兼テナントアドバイザリー、ヘンリック・エリクソン(Henrik Eriksson)氏は、未来のオフィスは、わずかな機能を備えたシンプルなデバイスからパーソナライズされた不可欠のデジタルハブに至ったスマートフォンの進化を追体験することになると信じています。
私たちはセンサーとアクチュエーターを通じて建物と対話し、パーソナライズされた音楽、照明、背景、さらには香りまでをもリクエストできるようになるでしょう。建物が私たちの気分を感知して、パーソナライズされた体験を構築するようになるかもしれません。
「屋内5Gは単なる一つの市場ではなく必須なものなのです。」とエリクソンUK及びアイルランド地域CEOのキャサリン・エインリー(Katherine Ainley)は述べています。「現在の5Gの屋内カバレッジは10〜15%に過ぎず、CSPが参入できる重要な市場機会となっています。5G SA(Standalone)ネットワークの導入とネットワークスライシングなどの進歩により、屋内カバレッジに革命をもたらすことができるでしょう。」
5Gは4Gと比べて速度とセキュリティが向上し、遅延が短く、最大1,000倍のデータ量を処理する能力を提供します。またほとんどのWi-Fi実装よりも信頼性が高く、必要なインフラも少なくて済みます。5Gでは、資産や人の正確な位置を1m未満の精度で特定できる位置認識ネットワークを追加の機器やセンサーなしに構築することもできます。これは不動産所有者や企業に数多くの新しい 革新的な事例 の可能性を開きます。
エリクソンコンシューマーラボのレポート「5G: 次に来る波, 」によると、5Gの新規顧客が屋内を含む5Gネットワークの可用性を強く求めているにもかかわらず、50%以上の時間5Gに接続されていると感じているユーザーは33%にとどまっています。
「通信業界では長年にわたり、より大きな容量と通信速度向上への要求が高まっています。これは屋外環境だけでなく屋内にも当てはまります。顧客はこの二つを区別しないのです。」
スイスコムのモバイルネットワーク/サービス・B2B部門責任者のマーク・デューセナー(Mark Düsener)氏は、次のように述べています。

スイスコムとエリクソンは、集中管理された一つの場所から半径10km以内の企業顧客に大容量の屋内5Gを提供できる新機能をすでに展開しています。カタールではエリクソンとOoredooが全国のスタジアムで 共有可能な5G屋内ソリューション を展開し、1.5Gbpsの速度を達成しました。

屋内通信を屋外カバレッジに依存するのが現実的でないのはなぜでしょう。
セルラー通信で使うスペクトルを太陽光に例えてみましょう。太陽光が窓と壁から入ってくることで、照明があまり必要ないこともあります。5Gは曇りの日に差し込む日差しのようなものです。それは建物内にも差し込みますが、それほど明るくはなりません。
5Gによるアウトサイドインカバレッジを、より高い周波数帯域であるミッドバンドとミリ波で維持するのはとても複雑になります。多くの近代的な建物には、太陽光を反射して建物を涼しく保つための赤外線反射窓もあります。このコーティングにより、特に高い周波帯域で外部からの信号の強度が弱くなります。
つまり十分なカバレッジを実現するには、比喩的に言うと建物内にさまざまな「照明」が必要になるのです。
未来のオフィスやその他の屋内環境では、さまざまな接続方法が混在することになるでしょう。
ベストエフォート型のインターネット接続を提供できるWi-Fiは、さまざまな目的に役立ちます。たとえば小さなホテルで手軽にインターネットを使うには、ロビーと部屋のWi-Fiが最適です。しかし数多くの人々とセキュリティカメラ、センサー、その他のスマートシステムの重要な運用のために高い性能と信頼性を保証しなくてはならないのであれば、安全なセルラーネットワークを使う方がいいでしょう。
これにより容量が増え、セキュリティが強化され、さまざまなレベルのサービス品質に対応でき、追加のログインやWi-Fiへの切り替えも必要ありません。セルラーネットワークはネットワーク内のAIおよび分散コンピューティングとも統合されており、サービス全体が向上しています。

中立ホスト主導モデル
- 所有権:: 中立ホスト(Neutral Host)がソリューションを所有
- アクセス: NHは不動産オーナーとの関係を持っている
- 資金: ネットワークソリューションの資金は、ビルオーナーまたは通信サービスプロバイダー(CSP)から提供される
- 利点:CSPはテナント/エンタープライズへのアクセスが容易であり、ビルオーナーが支払う場合はCAPEX(資本的支出)が不要で、ビル内のカバレッジを迅速に拡大できる。建物の所有者はより多くのソリューションの選択肢を持ち、インストールに対して影響を与えることができる。
- 欠点: CSPはNHの営業および運用能力を信頼する必要がある。

キャリア主導モデル
- 所有権: 通信サービスプロバイダー(CSP)がソリューションを所有
- アクセス: CSPは不動産オーナーとのアクセス/関係を持っている
- 資金: ソリューションの資金は、主導キャリアとしてのCSPから提供される
- 利点: 会場の関係/ソリューションに対する制御
- 欠点: 設計基準、コスト分割、会場所有者の条件など、オペレーター間での事前の調整がより多く必要です。

企業主導モデル
- 所有権: 企業がソリューションを所有
- 企業の投資ドライバー: キャリアからの資金不足 無線ネットワークのカバレッジとサービスの必要性
- 資金: 企業またはテナントからの資金提供
- 利点: リスクのないビジネスモデル CSPのCAPEX(資本的支出)の相殺CAPEX offset for CSP
- 欠点: ソリューションに対するオペレーターの影響が限られています。
では屋内接続を利益性のあるビジネスに転じるにはどうすればよいでしょうか。現時点では三つの主要なビジネスモデルがあります。
- CSPは5G屋内ネットワークを展開して顧客を接続できます。一部の立地では競合他社の加入者にローミングを提供できます。
- • 二つ目のモデルは企業自身が所有するプライベートネットワークです。
-
• 三つ目はニュートラルホストを使うことです。
それではこの三番目のビジネスモデルのメリットを詳しく見ていきましょう。
ニュートラルホストとは、屋内通信機器を所有し、単独または複数のCSPの顧客にそれを使わせる事業者です。ニュートラルホストは初期投資を行い建物の所有者と契約しますが、顧客はサービスプロバイダーにとどまります。
ニュートラルホストのネットワークに参加することで、CSPは迅速かつ費用対効果の高い方法で、優れた屋内インターネットの無い、建物内の多くの顧客にリーチを拡張できます。
屋内ネットワークの共有は新しいものではありませんが、新しいニュートラルホストモデルのおかげで、CSPは多くの場合、何をどうやって共有するのかを自由に選択できるようになりました。ニュートラルホストという仕組みはCSPの初期コスト節減に役立ち、また ネットワーク中立性 によって保護されることになります。
エリクソンが依頼したAltman-Soronの調査によると、ニュートラルホストのトレンドは北米と欧州で最も強く、2020年には中国を除く屋内機器市場の30〜40%を占める強力なニュートラルホスト事業者が出てきました。
50%
ニュートラルホスト事業者は、2025年までに中国以外の屋内機器市場の半分を占めると予想されています。
キャサリン・エインリーによると、英国とアイルランドの、特に密集地のオフィスビルなどといった、人通りは多いもののそれが散発的に発生する場所において、人々のやり取りが増えています。
エインリーは、最初の公共機関へのニュートラルホスト展開事例の一つとして、ロンドンの地下鉄を挙げています。ここではニュートラルホストプロバイダーがすべての主要なCSPと契約を結び、地下鉄に優れた接続性を構築しました。
エインリーは次のように述べています。「私たちは商用モデルの進化を目の当たりにしています。接続性が存在する場所と人々がそれを利用したい場所との間には大きな不一致があります。CSPにとって、これは比較的簡単な方法でネットワークを構築し成長させる絶好の機会です。」
スウェーデンのニュートラルホスト事業者ProptivityのCEOミカエル・ランドマン(Mikael Lundman)氏は、信頼性の高い接続性の需要が増えるにつれ、建物の所有者はシンプルなソリューションを求めていると述べています。
「携帯電話は今や財布であり、車のキーでもあります。不動産所有者は、優れた屋内ネットワークを確実に提供するために投資すべきツールを必要としています。ニュートラルホストはこのギャップを埋めることができます。」
Proptivity CEOミカエル・ランドマン

屋内ソリューションは、空港、ショッピングセンター、スタジアム、大学、ホテルなど、多くの場所で必要になりますが、すべて同じスモールセルソリューションが必要になります。
スイスコムのマーク・デューセナー氏は次のように述べています。「高性能の屋内5Gは、社会を本格的にデジタル化するカギを握っています。スイスコムでは、スイスの誰もがオフィス、空港、ショッピングセンターを含むあらゆる場所で5Gにアクセスできるべきだと考えています。」
これを念頭に置くと、標準化されたソリューションは技術とエコシステムの両方の観点から有用です。すでに実装されている例の一つは、英国のCSPが策定したニュートラルホストの展開を含む 共通仕様一式です。
それぞれの場所の背景を成すビジネスモデルは、誰が主導権を握るかによって根本的に異なってきます。しかしCSPまたはニュートラルホストが、より大きな文脈の中で接続性の価値に収益を結び付けることができるとしたらどうでしょう。
たとえば建物の所有者は、消費者に請求する金額に接続コストを含めることができるでしょう。あるいは高価値の接続性を大学の年間授業料や航空券の1%として評価し、前払い価格にバンドルできるかもしれません。
各設定をカスタマイズするにはいくつかの作業が必要ですが、たとえばネットワークスライシングと通信APIを組み合わせ、カスタマイズされたサービスとコンテンツのパッケージの開発を可能にするテクノロジーは、すでに利用可能です。通信業界がこれらのコンセプトを導入できるようになれば、建物の所有者は、複数のレストランの選択肢があるショッピングモールのフードコートのように「プラグアンドプレイ」を実行できます。
「文書の作成だけなら自宅でもできます。オフィスは今やコラボレーションと想像力を促進する場所です。それには素晴らしい技術が必要なのです。」
エリクソンUK及びアイルランド地域担当CEOキャサリン・エインリー

エリクソンインダストリーラボのレポート「 非物質化されたオフィス 」では、研究者がAR、VR、仮想アシスタントを最初に使った16か国の7,800人以上のホワイトカラーの意思決定者と従業員の意見を集めました。それによると、意思決定者と従業員の両方が、2030年までにさまざまなタスクに合わせて変化するデジタルデスク、インタラクティブなオンライン会議、本稿で触れた仮想ケーキなどのテクノロジーの登場を予想しています。
エリクソンリサーチでは、テクノロジーと高度なネットワークが 感覚のインターネットを生み出す未来を予想しています。これはXR(eXtended Reality)デバイスを使ってデジタルで物に触れたり、味わったり、匂いを嗅いだりすることができる技術です。
ネットワークが6Gに進化すれば、それは周囲を感知するレーダーのような能力を獲得することになるでしょう。シナリオの一つは、完全に没入型の 3D体験となるホログラフィック通信です。
この分野の最初のプロジェクトの多くは、美術館や舞台芸術などの文化的な文脈で行われています。ロンドンのリージェントストリートにおけるGreen Planet AR 体験は、視聴者をデビッド・アッテンボロー(Sir David Attenborough)卿と共に植物の秘密の王国に誘うものでした。エリクソンとボーダフォンは2023年の初めに、ドイツの オペラハウス で没入型ARイベントを制作しました。

2030年までに、セルラーネットワークに対応する新しいセンサーとスマートデバイスが、安全性の低い旧来のIoTシステムにとって代わることでしょう。ゼロエネルギーデバイス と呼ばれるこれらのセンサーの一部はバッテリーすら必要としないので、非常に広い用途があります。
オープンソース基盤上に構築されたスマートシティアプリケーションのエコシステムであるProptechOS, の最高エコシステム責任者兼創設者 エリック・ウォリン(Erik Wallin)氏は、こうした変化が、建物の所有者と企業が未来のオフィスで持続可能性目標を達成するのに役立つと述べています。興味深いことにウォリン氏は、ほとんどの作業が接続されていない古い建物への展開で行われると考えています。
接続センサーと標準化されたデータによって、古い建物で安価なAIプログラムが可能になります。ウォリン氏は次のように述べています。「つまりゼロから始める必要はないわけです。5Gで改造する大きなチャンスがあります。私たちは建物をスマートシティの良き住人にできます。」
屋内接続の環境上の利点は商業ビルにとどまりません。Carbon Trustはエリクソン及びビル管理ソリューションプロバイダーのKionaと協力し、接続されたエッジのAI管理システムによって、フィンランドとスウェーデンの356軒の住宅で1kトンのCO2排出と約1,730万kWhのエネルギー消費が削減 されたことを確認しました。
ヘンリック・エリクソン氏は、2030年の未来のオフィスはまるで遊園地にいるように感じられるだろうと言います。接続されたビルディングは、学び、美しさ、楽しさ、そして現実逃避に満ちた体験を生み出します。
この新しい環境が個人的なインタラクションと組み合わさることにより、職場でのあなたの感じ方、考え方、行動を形成します。あなたが仕事のためにオフィスに行っても、それは今日のオフィスとはまったく違ったものになるでしょう。
屋内接続の改善により、2030年までにオフィスにおいてあなたの健康、幸福度、生産性がどのように向上すると思いますか?
寄稿者
謝辞:
クマール・バラチャンドラン、ジェマ・スウィフト、エリック・ノルデル、ヤル・ファン、ニクラス・ヴェルメ、アンダース・アーランドソン、ピーター・エリクソン