ホログラフィック通信
June 2022
重要なポイント
ホログラフィック通話は、企業がリモート通信による既存の体験を向上させる上で最重要と評価するサービスです。
間もなくすべての人間の感覚がデジタル変換され、完全没入型の体験が可能になり、私たちのインタラクションやコミュニケーションの方法ががらりと変わることになるでしょう。
ホログラフィック通信—空間認識を備えた完全没入型の三次元体験—は現在も利用可能ですが、 さらに採用されるようになるには、さまざまな障壁があります。それらは極めて大量にデータを消費するため、さらなるマス・マーケット向けソリューションの実現には新しい処理技術が必要です。
処理をネットワークに移行することにより、非常に直感的なレベルのインタラクションを導入しながら、ホログラフィの視野拡大や高解像度化をまもなく実現できるでしょう。
環境および/または場所の認識の改善と相まって、仮想現実と物理的現実の区別はほぼ不可能となるでしょう。
今日、テレビ電話による疲労に悩み、より直接的、協調的かつ没入型の通信手段を望んでいる人々がどれほどいることでしょうか。直接的かつ感情的なつながりを実現するためには、フラットな二次元画面での友人や同僚とのコミュニケーションという既存の体験を超えた視点が必要です。
ホログラフィック通信はこの点で重要な飛躍を示しており、私たち皆が空間認識を備えた完全没入型の三次元体験に移行するために貢献します。実際、最近のEricsson Consumer Labのレポートでは、ホログラフィック通話は、企業がリモート通信による既存のエクスペリエンスを向上させるために最重要であると評したサービスでした。新しい才能を引き付け、才能ある人々を深く関与させ続けるために、さらなる真正性および非言語的合図の共有を可能にする通信への期待がますます高まるでしょう。
しかし、いかなるテクノロジーの成功もその目的として受け入れられることが重要です。世界中で関心を集めたけれど、数年後に姿を消した、新しい技術ソリューションがどれほどあったことでしょう。 アーリーアダプターからの熱狂的反響とその後の誇大宣伝を受け、ホログラフィック通信がどの様に進化し、より広範囲な市場で利用可能になるのか、またはその時期はいつになるのか、そして決定的に重要なこととして、なぜそれが他の手段より優れていてより直感的であるかを明確にする必要があります。
定性的および定量的市場調査により、ホログラフィック通信が世間に受け入れられる通信形態になるには、以下が必要となるのは明らかです。
- テクノロジーをサポートするための柔軟でスケーラブルかつ耐性がある基盤
- 新規で社会的に受け入れられるXRデバイス(メガネなど)
- すべての人がアクセスでき、直感的、シンプル、魅力的かつ堅牢なソリューション
Dreamscape ImmersiveのCOOであり創設メンバーであるアーロン・グロウスキー(Aaron Growsky)は、これが実現するとARメガネは「携帯電話やラップトップの様に皆さんにとってパーソナルなものになる」と示唆しています。Nrealの共同創設者、ペン・ジン(Peng Jin)も賛同しています。
「(ARメガネは)デジタル世界を直接現実世界に移動させ、体験できることの層が増していくでしょう」
Nrealの共同創設者のペン・ジン

Ericsson Holographic Communicationは人間のコミュニケーションを次のレベルに引き上げます。消費者向けモバイルデバイスで構築可能な没入型のリアルタイム3D体験を実現対面でのインタラクションを厳密に再現するこのホログラフィック技術により、製造、公益事業、教育などの分野で幅広い様々なアプリケーションが開拓されています。
リモート形式のコミュニケーションでは、より感情的なつながりを生み出すことが不可欠であり、ホログラフィック通信はこの達成まで長い道のりを経ることになるでしょう。それは、他国の友人や家族との距離感を乗り越え、営業やマーケティングチームが顧客をより理解し、共感するのに役立つでしょう。これが実現すると、産業と社会に対してのメリットは莫大です。
テクノロジーとしては、イメージを実現するための三つの主要なステップはそのまま保たれますが、他の同様のソリューションとは異なります。
- キャプチャーと前処理:オブジェクト、人物、または環境における測定可能な3D表現を作成し、データサイズを縮小するために冗長なポイントやノイズを除去するクリーニングプロセス。
- データの圧縮と送信:リアルタイムサービスの場合、ホログラフィック通信ではデータレート要件を無線ネットワーク経由で転送する必要があります。3D圧縮アルゴリズムの開発は加速しており、これらアルゴリズムの効率はデバイスのハードウェアサポートに依存します。
- 再構築と視覚化:転送された3Dストリームのデコードとレンダリングをリアルタイムで実行し、これにより、離れた場所にある特定の視点で体験を再現できます。
アバター技術
とはいえ、使用する技術や画像の品質によっては、出力が大きく異なる場合があります。一部のソリューションでは、人工知能(AI)に基づくアバター技術を使用して、ユーザーの写真の様にリアルな表現を生成し、画一的なホログラムまたは合成アバターと呼ばれるものを生成します。これらのホログラムはある程度の没入感を提供しますが、他のオプションと比較してユーザーの高レベルの存在感や自然な外観を出すことができません。
カメラで生成されたホログラム
別のソリューションでは、アバターではなくユーザーの実際の表現を生成するために、スタジオレコーディングを使って複数のカメラからホログラムをリアルタイムでキャプチャーする、ほぼ映画のような体験が可能です。これらは他のユーザーと同等の高精細性を提供し、ユーザーが提供する詳細な情報や対話によってユーザー間にリアルタイム感覚を生み出します。しかし、専用の場所にさまざまなデバイスを複雑に設置する必要があるため、迅速な展開と再利用には制限があります。つまり、このアプローチは、ほとんどの人々にとってスケーラブルではない(拡大・縮小性がない)、または利用可能ではないため、現在、使用されるシーンは限定されています。
消費者がアクセス可能なホログラム
Ericsson Holographic Communicationでは、消費者向けの電話またはタブレットを使用して画像をキャプチャーし、AIで補完して完全な3Dホログラフィック体験を生み出します。これは、ビデオを2 Gbpsから30〜50 Mbpsに圧縮する最先端の機能によって可能になり、モバイルネットワーク上の負担が減少します。
次に、圧縮されたコンテンツは既製のXRデバイス(メガネなど)に送信され、そこでホログラフィックストリームがデコードおよび処理されてからユーザー環境でレンダリングされ、正確に表示されます。このプロセス全体には数ミリ秒程度かかります。画像はユーザーの完全な複製ではありませんが、ユーザー間のより強い臨場感と感情的つながりを生み出す、忠実度の高いデジタル版です。
エリクソンでホログラフィック通信の、より焦点を絞った研究の必要性を特定し、Ericsson ONE内でのアイデアの加速を経て、それらのアイデアのサポートを得た起業家、アリ・エル・エサイリ(Ali El Essaili)とナタリア・テュディナ(Natalya Tyudina)がプロジェクトを主導しました。その結果、私たちのテクノロジーは既製のメガネで運用されています。2022年初頭時点で、消費者および企業の多岐にわたるユースケースの開発をサポートすべく、チームは世界中の複数の主要事業者と協議していますが、これはほんの始まりに過ぎません。
「人が過去を振り返り、 『白黒で映画を見たなんて信じられない。』と言い、『フラットな動画で他の人と会話をしていたなんて信じられない。』と言われるようなものを作りたいと思っています」
Ericsson Holographic Communication チームメンバー、アルヴィン・ジュード・ハリ・ハラン(Alvin Jude Hari Haran)

ミリ秒の遅延により、5Gによって提供されるアクションから応答までの時間、硬い物体と柔らかい物体を区別する機能(触覚能力)、および、遠隔ロボットを介した動きと抵抗の模倣(運動感覚機能)が驚異的スピードで向上しています。2030年までにこれらはさらに拡張され、すべての人間の感覚がデジタル変換され、完全没入型の体験が可能となるでしょう。自分を離れた場所に仮想的にテレポートする機能によって、仮想世界と物理世界の双方で体験できることの境目が曖昧になるでしょう。
Holographic Communicationにおいて真の存在感に貢献するには、環境または場所の認識も不可欠です。エリクソンはこの実現に注力しています。
アバターがオブジェクトを通り抜けたり、その上に浮かんでいたりするのをこれまで何度見てきたことでしょう。これらのグリッチは体験全体に影響し、画像の忠実度やXRデバイスの美しさにも関わらず、没頭するレベルからかけ離れてしまいます。ホログラムがその環境を理解し、それに反応できれば、理論的にはオブジェクトをより自然に認識して動き回ることができます。このレベルのリアルタイムインタラクションにより、現実世界に対する存在感と真のつながる感覚が提供されるでしょう。
ハイブリッドグループ環境
物理的なディスカッションと仮想的なディスカッションが混在し、アバター、人、オブジェクトがグリッチ無くシームレスに相互にインタラクションしているカフェを訪れることを想像してみて下さい。あるいは、物理的な部屋の座席を占有して、全員がホログラフィックイメージとして参加するハイブリッド会議かもしれません。さらに、プレゼンテーションはもはや二次元である必要はなく、拡張されたオーバーレイとして体験全体に含まれるようになるでしょう。
仮想的エンゲージメントにおけるハプティクス
特定の画像またはグラフィックについて別の視点が必要になる場合、出席者はそれをリアルタイムで回転させ、会議で即座にまたは後で参照できる注釈を残すことができます。会議中のインスタントメッセージングの形式は、ホログラフィック/仮想形式です。これらの環境でタッチを実現できる触覚または触覚デバイスをさらに一歩進めると、あらゆる物理オブジェクトの質感、重量、弾力性などの要素をデジタル変換して仮想世界の一部にすることが可能になるでしょう。 これにより、他の人々とリアルタイムで、製品の「もしそこに居たら」ツアーを作成し、形状やサイズに関わらず、外観や感触のリアルタイムの印象を提供できるでしょう。
ホログラムによるショッピング
小売の観点からは、世界中からのホログラフィック的でパーソナライズされた体験の可能性もあるでしょう。仮想店舗では、店員のホログラムが現れ、アイテムの仮想レプリカが共有され、視覚的にも触れることによっても、製品の確認ができるかもしれません。リアルタイムでアイテムに変更を加え、完璧な結果を出し、物理的に本人に送るかまたは将来のホログラフィック/仮想イベントで使用するための拡張版として共有できる可能性があります。仮想的仮装パーティーがどの様な感じか想像できるでしょうか?世界中の人々がそこに参加できて、どれほど突拍子もない衣装についても制限が無くなるでしょう。
それを実現させるテクノロジー
仮想現実と物理現実の区別を無くすためには、二つの世界を組み合わせ、同期させる、超低遅延、高帯域幅、リソースの可用性を絶えず適応させるようなインテリジェンスを実現する基盤が必要です。5Gでは、6Gで可能になるユビキタス接続とリモートコンピューティング能力を確立するある方法で、極めて大きな一歩を踏み出しました。
AIのサポートにより、ホログラフィック通信の要求を満たすために、さらなるネットワーク機能も導入されます。例えば、この二つを組み合わせると、ユーザーの行動やルーチンに応じてネットワークを常に適応させ、ネットワークから必要となるものを先取りし、体験の全体的な品質や信頼性を高めることができるでしょう。
さらに、SLAM(simultaneous localization and mapping、同時ローカリゼーションおよびマッピング)と深層学習を組み合わせることにより、XRアプリケーションが幾何学的な地図をローカライズして構築するだけでなく、周囲を即座に識別し、仮想オブジェクトとインタラクションする、新しくより没入型の方法が実現するでしょう。
最後に、視野拡大と高解像度化や自然なジェスチャーを使用した対話を可能にし、XRデバイスのバッテリー寿命を延ばすためには、処理をネットワークに移行する必要があります。それによりXRデバイス(メガネ、またはコンタクトレンズ)は、設計上はるかに軽量で、より高度な機能性が実現できるかもしれません。Nrealの共同創設者、ペン・ジン(Peng Jin)は、2030年までに、XRデバイスの形状とサイズは、フレームとレンズの厚みの点で「通常のサングラスと同等」になると考えています。しかし、これを実現するには「コストと品質のトレードオフ無しで、大規模なコンピューティングとネットワークのアップグレードが必要になるだろう」と彼は述べています。
コミュニケーションの次のステップの準備はできているか?
エリクソンは、コミュニケーションは基本的に人間的なものであると信じています。立ち止まってイノベーションのペースや、日常生活の中で誰かへの連絡方法の数に限りがないことについて考えてみると、私たちの進歩は驚くべきものがあります。無限のつながりとホログラフィック通信によって次に起こることは、我々の生活を改善しビジネスを革新する潜在性があるでしょう。
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